GLOSSARY — 160 TERMS / 10 FIELDS
宿泊施設M&A・温泉法務・再生実務
専門用語大辞典
旅館・ホテルを売る、買う、受け継ぐ、立て直す。
その現場で交わされる160の言葉を、定義と実務の勘所、関連ページとともに。
この専門用語大辞典は、旅館・ホテルの売買・事業承継・再生で使う160語を、宿泊指標と財務、M&A契約、旅館業法と消防、温泉法、建築と都市計画、改修と省人化、運営と資金調達、鑑定評価、土地の権利と登記、売買契約と税務の10分野に分けて定義したものです。
各用語は「定義」「宿泊M&A・再生の実務上の注意点」「関連ページ・計算ツール」の3つでまとめ、法令・税・登記・鑑定の用語には一次出典(e-Gov法令検索、国土交通省、国税庁、法務省など)を添えています。定義の文は、そのまま引用していただけるように一文目に結論を置いています。
法令・税制・通達は改正されます。ここでの説明は一般的な整理で、個別の取引の法的・税務上の判断ではありません。手続や判断は、所管の役所と弁護士・税理士・司法書士・土地家屋調査士・不動産鑑定士などの専門家に確かめてください。
160語
CATEGORY 01 — 15語
宿泊指標・財務・収益評価
- 001ADR(平均客室単価)ADR(Average Daily Rate/平均客室単価)
ADR(平均客室単価)とは、一定期間の客室売上を、実際に販売した客室数で割った1室1泊あたりの平均販売価格である。宿泊施設の価格水準を示す基本指標で、客室稼働率と掛け合わせるとRevPARになる。料飲売上は通常含めず、税・サービス料の扱いは施設ごとの定義を確認する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
売主が示すADRが税込みか税抜きか、朝夕食やサービス料を含むか、OTA手数料を差し引く前か後かを月次の明細で確かめる。1泊2食の旅館は1室単価と1人単価が混在しやすい。団体や繁忙期の高単価が平均を押し上げていないか、PMSの予約データと照合して季節別・販売経路別に分けて見る。
- 002OCC(客室稼働率)OCC(Occupancy Ratio/客室稼働率)
OCC(客室稼働率)とは、一定期間に販売可能だった客室数のうち、実際に販売された客室数の割合である。販売客室数÷販売可能客室数×100で求め、宿の需要の強さを示す。改修や休館で止めた客室を分母に含めるか、招待や自家使用を分子に含めるかで値が変わる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
客室稼働率と定員稼働率(人員稼働率)、延べ宿泊者数の数値が混同されていないか確認する。休館日や閉鎖した客室を分母から外していると高く見える。月別・曜日別の推移と、OTAの在庫を絞った期間の有無も見る。人手不足で販売する客室を減らしている宿は、稼働率よりも販売可能室数の制約が収益の上限になっていることがある。
- 003RevPAR(販売可能客室あたり売上)RevPAR(Revenue Per Available Room/販売可能客室あたり売上)
RevPAR(販売可能客室あたり売上)とは、一定期間の客室売上を販売可能客室数で割った指標で、ADR×客室稼働率でも求められる。価格と稼働の両方を一つの数字で表し、同じ商圏の宿どうしや同じ宿の年次比較に使う。料飲や付帯施設の売上は含めないのが一般的である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旅館は1泊2食の売上を客室分と料理分に分けていないことが多く、他の施設のRevPARと単純には比べられない。比べる前に売上の区分と販売可能室数の定義をそろえる。RevPARが上がっていても、OTA手数料や人件費の増加で利益が増えていないことがあるため、販売可能客室あたりの営業総利益(GOPPAR)も合わせて見る。
- 004GOP(営業総利益)とGOP率GOP(Gross Operating Profit/営業総利益)とGOP率
GOP(営業総利益)とは、ホテル・旅館の総売上から、客室・料飲などの部門費用と、管理・営業・水道光熱・保守などの部門に配賦しない費用を差し引いた運営段階の利益である。賃料・固定資産税・保険・減価償却・支払利息は差し引く前の数字で、GOP率は総売上に対するGOPの割合をいう。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
売主の決算書は所有と運営の費用が混在しているため、GOPを出すには勘定科目を部門別に組み替える必要がある。家族の無給労働、役員報酬、私的な経費、修繕費の計上漏れで実態より高く見えることがある。運営委託(MC)では運営会社の報酬がGOPに連動することが多いため、GOPの計算式の定義を契約書で確認する。
- 005NOI(純営業収益)NOI(Net Operating Income/純営業収益)と償却前営業利益
NOI(純営業収益)とは、不動産の年間の運営収益から、運営費用と固定資産税・保険料などを差し引いた純収益で、減価償却費と支払利息を差し引く前の金額である。直接還元法による価格の試算や利回り比較の基礎になる。償却前営業利益も減価償却費を除く点は近いが、費用の範囲は資料ごとに確認する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊施設のNOIは、GOPから固定資産税・保険料・FF&Eリザーブなどの所有者側の費用を差し引いて求めることが多い。更新積立や大規模修繕を控除しないNOIで利回りを出すと価格が高く算定される。賃貸型の宿は賃料収入、直営の宿は事業収支が出発点となり、同じNOIでも中身が違う点に注意する。
- 006EBITDAとEV/EBITDA倍率EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)とEV/EBITDA倍率
EBITDAとは、利払前・税引前・減価償却前利益のことで、一般に営業利益に減価償却費を足し戻して求める。設備の多い宿泊業で、償却方法や借入の違いを除いて事業の稼ぐ力を比べるのに使う。EV/EBITDA倍率は、企業価値(株式価値+有利子負債−現預金など)をEBITDAで割った倍率である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
株式譲渡で倍率から価格を出す場合、EBITDAは一時的な補助金・保険金・資産売却益を除き、オーナーの報酬や私的な経費を正常な水準に直してから使う。企業価値から株式価値へ戻す際、借入金のほか未払税金・退職給付・リース債務・前受金を負債に含めるかで手取りが変わる。築古の宿は更新投資が重く、EBITDAだけでは返済余力を測れない。
- 007DSCR(借入金償還余裕率)DSCR(Debt Service Coverage Ratio/借入金償還余裕率)
DSCR(借入金償還余裕率)とは、一定期間の返済原資となるキャッシュフロー(NOIなど)を、同じ期間の元利金の返済額で割った比率である。1.0倍を下回ると収益だけでは返済をまかなえないことを示す。金融機関が融資審査で一定以上の水準を求めることがあり、分子の定義は金融機関ごとに異なる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊業は季節変動が大きいため、年間のDSCRが足りていても閑散期に資金が不足しうる。改修後の想定収益を分子に使う場合はその根拠を示し、分母には据置期間が明けた後の返済額を入れて試算する。FF&Eの更新や大規模修繕を差し引いた後の返済余力も確かめ、金利が上がった場合の変化を見ておく。
- 008FF&EとFF&EリザーブFF&E(Furniture, Fixtures and Equipment/家具・什器・備品)とFF&Eリザーブ(更新積立金)
FF&Eとは、家具・什器・備品の略で、客室の家具・寝具・照明・厨房機器など、建物本体とは別に更新される動産類をいう。FF&Eリザーブ(更新積立金)は、その計画的な更新のために売上の一定割合を毎期積み立てる仕組みで、運営委託契約などで定めることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
売買では、どのFF&Eが譲渡の対象で、どれがリース・レンタル・第三者の所有かを一覧で確定させる。リース物件は売主の所有ではないため、契約を承継するか精算するかを決める。残置物として引き渡す場合は稼働状況と処分費の負担も契約に書く。更新の実績が乏しい宿は、取得直後の更新費を価格や資金計画に織り込む。
- 009CAPEX(資本的支出)と修繕費CAPEX(Capital Expenditure/資本的支出)と修繕費の区分
CAPEX(資本的支出)とは、固定資産の価値を高め、または耐久性を増すための支出で、税務上は資産に計上して減価償却する。これに対し、通常の維持管理や原状回復のための支出は修繕費として、その期の費用にする。区分は名目ではなく支出の実質で判断し、金額や周期による形式的な基準もある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
売主の決算書で大規模な改修を修繕費に計上していると、利益が年ごとに大きく振れる。過去の工事履歴を資本的支出と修繕費に分けて把握し、今後の更新計画と比べる。買主は取得後の改修をどちらに区分するかで税負担と資金繰りが変わるため、工事の計画段階で税理士に確認する。
- 010キャップレート(還元利回り)キャップレート(還元利回り/Cap Rate)と収益還元法・DCF法
キャップレート(還元利回り)とは、収益還元法の直接還元法で、一期間の純収益を価格に換算するために用いる利回りである。価格=純収益÷還元利回りで求め、利回りが低いほど価格は高くなる。収益還元法には、直接還元法と、複数期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引くDCF法がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
ホテル・旅館は収益が運営に左右されるため、住宅やオフィスより高い利回りが求められやすい。想定利回りの根拠となる取引事例が、立地・規模・運営形態の近いものかを確かめる。分子の純収益がFF&Eリザーブや大規模修繕、運営会社の報酬を差し引いた後かどうかで、同じ利回りでも価格が大きく変わる。
- 011FLコストとFL比率FLコスト(Food & Labor Cost/食材原価・人件費率)とFL比率
FLコストとは、食材原価(Food)と人件費(Labor)を合わせた費用で、FL比率はその合計が売上高に占める割合である。飲食業の収益管理で広く使われ、旅館では料飲部門の売上に対して見ることが多い。宿泊と食事を一体で売る1泊2食の料金では、料理分の売上をどう配分するかで比率が変わる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旅館の人件費は客室・料飲・清掃を兼務する人が多く、料飲部門への配分が恣意的になりやすい。食材原価に期末の棚卸を反映しているか、従業員の食事や自家消費が混ざっていないかを確かめる。料理長が退職すると献立や仕入れ先が変わり原価構成が一変するため、承継ではレシピと仕入れ口座を引き継げるかも確認する。
- 012人時売上高・人時生産性人時売上高・人時生産性(宿泊・料飲部門の労働生産性指標)
人時売上高とは、売上高を総労働時間(人時)で割った、従業員1人が1時間あたりに生み出す売上である。人時生産性は、売上の代わりに粗利益や付加価値を総労働時間で割った指標をいう。宿泊・料飲部門の配置人数やシフトの効率を測り、省人化の投資の効果を比べるのに使う。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
総労働時間に、パート・派遣・外注の清掃・家族従業員の時間が含まれているかで数値が大きく変わる。タイムカード、給与台帳、外注の請求書を照合して実際の労働時間をつかむ。承継後に労働時間の管理を適正にすると、未払残業代の精算や人件費の増加が生じることがあるため、取得前の収支の試算に反映させる。
- 013OTA手数料と直販比率OTA手数料(Commission)と直販比率(自社予約比率)
OTA手数料とは、オンライン旅行会社(OTA)経由の予約に対して宿泊施設が支払う送客手数料で、一般に宿泊料金に対する料率で定められる。直販比率は、全予約のうち自社サイトや電話など自社の経路で受けた予約の割合である。手数料率は契約内容、販売プラン、広告の利用などによって異なる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
OTAの請求明細から、広告費・ポイント原資・決済手数料を含めた販売経路別の実質的な手数料を算出する。直販比率が高く見えても、常連客の名簿や関係が経営者個人に依存している場合は承継後に維持できるとは限らない。OTAのアカウントや口コミの評価を引き継げるかは、各社の規約と手続によるため事前に確認する。
- 014予約前受金のM&A精算予約前受金(デポジット・事前決済分)のM&A精算処理
予約前受金とは、宿泊サービスを提供する前に予約者から受け取った宿泊代金や予約金で、提供するまでは売上ではなく前受金(負債)として扱う。M&Aでは、引渡しをまたぐ予約について、受け取った資金と宿泊を提供する義務の帰属を予約ごとに照合し、決済時に精算する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
事業譲渡や不動産売買では、引渡し後の宿泊分の前受金を買主へ移すか代金から差し引くかを決める。株式譲渡では会社に残るため、価格調整の対象にするかを確認する。OTA経由の事前決済は入金が宿泊後になることもあるため、予約番号ごとの一覧に版を付け、取消し・返金・チャージバックの負担と精算の期限を契約で定める。
- 015運転資金(ワーキングキャピタル)運転資金(ワーキングキャピタル)と季節変動キャッシュフロー
運転資金(ワーキングキャピタル)とは、事業を回すために必要となる資金で、一般に売上債権と棚卸資産から仕入債務を差し引いた額で表す。宿泊業は繁閑の差が大きく、閑散期や休館中も人件費・光熱費・借入の返済が続くため、月ごとの資金の出入りを把握することが欠かせない。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
株式譲渡では、決済時点の運転資金が通常の水準より少ないと、買主が取得直後に資金を補う必要が生じる。基準とする正常運転資金と価格調整の方法を契約で決める。閑散期の資金不足、前受金の取崩し、改修中の休業による減収を月次の資金繰り表で試算し、取得資金とは別に運転資金の手当てを金融機関と相談しておく。
CATEGORY 02 — 15語
M&A・事業承継・契約スキーム
- 017事業譲渡事業譲渡(Business Transfer/資産・負債・契約を選別して引き継ぐスキーム)
事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、資産・負債・契約・従業員などを選んで他の会社や個人へ移す取引である。移す対象を個別に定めるため簿外債務を引き継ぎにくい一方、契約の移転には相手方の同意、雇用の移転には従業員の承諾が必要になる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
改正旅館業法(2023年12月13日施行)により、事業譲渡では譲受人が都道府県知事等(保健所設置市・特別区は市長・区長)の承認を受けることで営業者の地位を承継できる。申請は譲渡の前に行い、承認と譲渡の効力発生日の順序を合わせる。温泉の利用許可や飲食店営業許可は別に手続を確かめ、不動産の移転にかかる税も試算する。
- 018会社分割(吸収分割・新設分割)会社分割(吸収分割・新設分割による宿泊事業の切り出し)
会社分割とは、会社法に基づき、会社の事業に関する権利義務の全部または一部を、既存の会社へ承継させる吸収分割、または新しく設立する会社へ承継させる新設分割である。旅館・ホテル部門だけを切り出し、承継した会社の株式を譲渡する形でM&Aに使われることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旅館業の営業者の地位を会社分割で承継するには、分割の前に都道府県知事等の承認を受ける。労働契約の承継は労働契約承継法の手続に従う。債権者保護の手続や、不動産の移転登記、税の取扱い(適格分割の要件など)も確認する。分割の後すぐに株式を譲渡する計画は税務上の要件に影響しうるため、税理士と事前に検討する。
- 019不動産売買(アセットディール)不動産売買(Asset Deal/土地・建物・設備の所有権移転)
不動産売買(アセットディール)とは、旅館・ホテルの土地・建物・設備などの所有権を売主から買主へ移す取引である。営業許可、従業員、取引契約は原則として移らないため、買主は自ら旅館業の許可を取り直すか、事業譲渡と組み合わせて営業者の地位を承継する手続をとる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
建物を買っても、旅館業・消防・温泉の名義が自動で移るわけではない。新しく許可を取る場合は、その時点の構造設備基準や消防法令への適合を改めて求められることがある。土地と建物の代金の按分は消費税と減価償却に影響する。所有権移転登記、抵当権の抹消、固定資産税等の日割精算、付帯設備の引渡し範囲を契約で確定させる。
- 020第二会社方式第二会社方式(過剰債務旅館の事業再生・私的整理スキーム)
第二会社方式とは、過剰な債務を抱えた会社の収益性のある事業を、会社分割や事業譲渡で新しい会社(第二会社)へ移し、旧会社に残した債務を特別清算などで整理する事業再生の手法である。金融機関など債権者の同意を得て進める私的整理の枠組みの中で用いられることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
債権者の同意なく収益のある事業だけを移すと、詐害行為の取消しや会社法上の請求の対象となるおそれがあるため、弁護士と金融機関の関与のもとで進める。旅館業・温泉・飲食の許可は、第二会社で承継または新規取得の手続が要る。従業員、予約、取引先との契約の移し方と、旧会社の清算に伴う税務も並行して確認する。
- 021任意売却任意売却(競売・公売前に債権者合意のもとで行う事業用不動産売却)
任意売却とは、借入金の返済が難しくなった所有者が、競売や公売の手続によらず、抵当権者など債権者の同意を得て担保に入っている不動産を売却する方法である。売却代金を返済に充て、債権者が担保の抹消に応じることで、買主は抵当権の付いていない状態で取得する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
売主と買主が合意しても、すべての抵当権者や差押えをした者が抹消に応じなければ決済できない。登記簿で担保と差押えを調べ、代金の配分と抹消書類の交付を決済日に合わせる。サービサーが関わる場合は法務省の許可を受けた事業者かを確認する。営業を続けるなら、許可・予約・従業員の引継ぎを債権の整理と並行して進める。
- 022段階的情報開示段階的情報開示(D1匿名概要・D2詳細資料・D3現地内覧/最終DD)
段階的情報開示とは、売却の検討に必要な情報を、相手と交渉の進み具合に応じて少しずつ開示していく方法である。一般に、施設を特定できない匿名の概要、秘密保持の手続を経た後の詳細資料、最終段階の現地内覧や原資料による調査という順に深め、情報が広がる範囲を抑える。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
施設名を伏せても、写真・源泉・地域・客室数の組合せで特定されることがあるため、匿名の概要は資料全体で確かめる。秘密保持契約を結ぶだけで漏えいの危険はなくならないので、閲覧者・期間・保存の可否を資料ごとに決め、開示の履歴を残す。顧客や従業員の個人データは、集計や匿名化で足りる段階では渡さない。
- 023NDA(秘密保持契約)とネームクリアNDA(秘密保持契約/Non-Disclosure Agreement)とネームクリア
NDA(秘密保持契約)とは、M&Aの検討のために開示する情報について、秘密情報の範囲、利用目的、開示してよい相手、返還・廃棄などを定める契約である。ネームクリアは、売主が買主候補の名前を確認し、その相手に施設名などを明かしてよいかを承認する手続をいう。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
役職員・金融機関・専門家への再開示の範囲と責任、交渉が不成立のときの返還・廃棄、有効期間を確認する。売主は、近隣の競合施設や取引先が買主候補に含まれていないかをネームクリアで確かめる。NDAを結んでも個人データの提供には個人情報保護法上の条件が別にかかるため、顧客名簿や従業員情報は集計で足りる範囲にとどめる。
- 025LOI(意向表明書)とMOU(基本合意書)LOI(Letter of Intent/意向表明書)とMOU(基本合意書)・独占交渉権
LOI(意向表明書)とは、買主候補が売主に対し、想定価格、取引の方法、資金の手当て、日程などの買収の意向を示す書面である。MOU(基本合意書)は、売主と買主が主な条件と今後の進め方を確認する合意書で、一定期間ほかの候補と交渉しない独占交渉権を定めることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
LOIやMOUの条件の多くは法的拘束力を持たない形にするが、独占交渉、秘密保持、費用負担などには拘束力を持たせることがある。どの条項に拘束力があるかを書面で明記する。想定価格は調査の結果で変わりうる前提を共有し、独占交渉の期間、延長の条件、期限後の扱いを決めておく。
- 026DD(デューデリジェンス)DD(デューデリジェンス/買収監査:財務・税務・法務・建築・設備・環境・温泉)
DD(デューデリジェンス)とは、買主が取得の判断と条件の交渉のために、対象の事業・会社・不動産を調べる買収監査である。宿泊施設では、財務・税務・法務に加え、建物の遵法性や設備の状態、石綿・土壌などの環境、温泉の権利と許可、許認可の承継の可否を調べることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊施設は、検査済証の有無、増築部分の遵法性、消防法令への適合、温泉の採取・利用の許可と配湯契約、旧耐震への該当、石綿やPCBの有無が価格を左右しやすい。見つかった事項は、価格の調整、契約前の是正、表明保証・補償、クロージング条件のどれで手当てするかを決める。調べきれない点は未確認として記録する。
- 027表明保証と補償条項表明保証(Representations and Warranties)と補償条項
表明保証とは、M&Aの契約で、売主や買主が一定の時点における事実、たとえば決算書の正確さ、許認可の有効性、法令違反や訴訟がないことなどが真実かつ正確であると表明し、保証する条項である。補償条項は、その違反などにより相手方に生じた損害を補う義務を定める。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊施設では、許認可・消防・温泉の権利、未払賃金、簿外債務、建物の遵法性などを表明保証の対象に含めるかを確認する。補償の上限額、請求できる期間、少額の請求を除く下限を交渉で決める。調査で判明した事項は、表明保証ではなく個別の補償や価格で手当てすることがある。「売主の知る限り」という限定の有無も見る。
- 028チェンジオブコントロール条項チェンジオブコントロール条項(CoC条項:株主変更時の契約解除・融資期限の利益喪失条項)
チェンジオブコントロール条項とは、契約当事者の株主構成や経営の支配権が変わったときに、相手方が契約を解除できる、事前の通知・承諾を求める、借入金の期限の利益を失わせるなどの効果を定める契約条項である。株式譲渡では契約が会社に残るため、特に問題になる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
株式譲渡では、融資契約・リース・賃貸借(借地を含む)・運営委託・フランチャイズ・OTAやPMSの契約を洗い出し、CoC条項と通知・承諾の要否を一覧にする。金融機関や地主の承諾が得られないと期限の利益喪失や解除につながりうるため、承諾の取得をクロージング条件に入れるか、決済時の一括返済を資金計画に織り込む。
- 029簿外債務簿外債務(未払残業代・退職金引当・リース残債・土壌/アスベスト汚染リスク)
簿外債務とは、貸借対照表に計上されていないが、会社が将来負担する可能性のある債務である。宿泊業では未払残業代、計上不足の退職金、リース残債や保証債務、土壌汚染・石綿の対策費などが典型で、株式譲渡では会社とともに買主側へ引き継がれる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
株式譲渡では、勤怠記録と給与台帳から未払残業代の有無、退職金規程と引当の差、リース・割賦・保証の契約一覧、訴訟や行政指導、温泉・設備の未払負担金を確かめる。見つからなかったリスクは表明保証と補償条項、価格の調整、エスクローなどで手当てし、懸念が大きければ事業譲渡で引き継ぐ範囲を絞る方法も比べる。
- 030クロージング条件(CP)クロージング条件(CP:前提条件の充足・許認可承継承認・決済引渡し)
クロージング条件とは、最終契約を結んだあと、代金の決済と株式・事業・不動産の引渡し(クロージング)を実行するために満たされている必要がある前提条件(CP)である。許認可の承継承認、第三者の承諾、表明保証が正確であること、抵当権抹消の準備などを定める。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旅館業の事業譲渡では、承認を受ける前に譲渡の効力が発生すると承継制度を使えず新規許可が必要になる。承認の取得、温泉・食品・浴場の手続、金融機関・地主の承諾、抵当権抹消書類の準備を条件として並べ、満たせない場合の期限・延期・解除と、決済日を誰がどう確定するかを契約で決めておく。
CATEGORY 03 — 15語
旅館業法・保健所・消防・許認可実務
- 031旅館業の3営業種別旅館業法における3営業種別(旧4種別)(旅館・ホテル営業/簡易宿所営業/下宿営業)
旅館業の営業種別とは、旅館業法が定める旅館業の区分で、現在は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3種別である。2018年6月15日施行の改正で、それまでの「ホテル営業」と「旅館営業」が「旅館・ホテル営業」に統合された。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
許可証の営業種別と、現在の売り方・客室の使い方が合っているかを確かめる。簡易宿所の許可のまま客室構成を大きく変えている、下宿の許可で短期の宿泊をさせているなど、種別と実態がずれる場合は承継の前に保健所へ相談する。種別の変更は新たな許可や構造設備の確認が要ることがあり、条例の上乗せ基準も地域ごとに違う。
- 032旅館業の事業譲渡による承継承認旅館業の事業譲渡による承継承認申請(2023年12月施行の改正旅館業法・譲渡前に行う保健所手続)
旅館業の事業譲渡による承継承認とは、2023年12月13日施行の改正旅館業法で設けられた制度で、譲渡人と譲受人が譲渡の前に都道府県知事等(保健所設置市・特別区は市長・区長)の承認を受けると、譲受人が営業者の地位を承継できるものである。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
承認より先に譲渡の効力が発生すると承継制度は使えず、新規許可が必要になる。契約締結日・効力発生日・決済日を分け、効力発生日までに審査が終わるかを管轄の保健所と確かめる。一つの許可に係る事業の一部だけの譲渡は対象外で、未届の増改築は承継で解消されない。消防・建築・温泉の手続も別に確認する。
- 033合併・分割・相続による旅館業の地位承継合併・分割・相続による旅館業営業者の地位承継(事前承認・死後60日以内の承認申請)
合併・分割・相続による旅館業の地位承継とは、営業者である法人の合併・分割、または営業者の死亡による相続の際に、許可を取り直さず営業者の地位を引き継ぐ手続である。合併・分割は事前に承認を受け、相続は被相続人の死亡後60日以内に承認を申請する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
合併・分割は効力発生の前に承認を得る日程を組み、分割では旅館業の事業全部が承継会社に移るかを確かめる。相続は60日以内の申請を逃さないよう、遺産分割の協議中でも営業を継ぐ相続人を早く決める。株式譲渡は営業者の法人が変わらないため承継手続の対象ではないが、役員変更などの届出の要否は保健所で確認する。
- 034旅館業の構造設備基準構造設備基準(客室面積・玄関帳場/代替ICT設備・換気・採光・入浴設備・便所基準)
旅館業の構造設備基準とは、旅館業法施行令と都道府県等の条例が営業種別ごとに定める、客室の床面積、玄関帳場またはこれに代わる設備、換気・採光・照明・防湿・排水、入浴設備、便所などの基準である。許可の審査に使われ、条例で上乗せされることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
許可時の図面と現況を比べ、客室の増減・間取り変更・浴場や便所の改修が届出どおりかを確かめる。玄関帳場をICT設備で代える場合は、本人確認や緊急時の駆け付けなど国の管理要領と条例の条件を満たすか保健所に確認する。承継しても基準への適合が免除されるわけではなく、改修計画は着工前に相談する。
- 035住宅宿泊事業法(民泊新法)住宅宿泊事業法(民泊新法・年間180日上限)と特区民泊・簡易宿所の違い
住宅宿泊事業法とは、2018年6月15日に施行された、住宅に人を宿泊させる事業を届出制で認める法律で、宿泊させる日数は年間180日が上限(条例でさらに制限できる)である。特区民泊は国家戦略特区の認定制度、簡易宿所は旅館業法の許可で、年間日数の上限はない。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
民泊の届出物件は180日の上限と条例の制限があるため、年間を通じた稼働で収益を評価しない。届出は事業者ごとで、買主が続けるには原則として自ら届出をする必要がある。特区民泊は最低宿泊日数などの条件と自治体の受付状況を、簡易宿所への切替えは用途変更・消防設備・条例の基準を確かめ、管理業者への委託の要否も確認する。
- 036公衆浴場法(一般公衆浴場・その他の公衆浴場)公衆浴場法(一般公衆浴場とその他公衆浴場:日帰り温泉・サウナ施設の許可区分)
公衆浴場法とは、温湯・潮湯・温泉などを使って公衆を入浴させる施設の営業を、都道府県知事等の許可制とする法律である。銭湯のように地域住民の日常生活に必要な「一般公衆浴場」と、日帰り温泉・スーパー銭湯・サウナなどの「その他の公衆浴場」に分けて運用される。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊者だけが使う浴場は旅館業の許可の中で扱われることが多いが、外来の日帰り客を受け入れるなら公衆浴場業の許可が要るかを保健所に確認する。既存の許可の名義・範囲を許可証で確かめ、事業譲渡では承継の届出、新たな営業では許可の申請が要る。温泉を使う場合は温泉法の利用許可も別に確認する。
- 037食品衛生法(飲食店営業許可・HACCP)食品衛生法(飲食店営業許可の承継・食品衛生責任者・HACCPに沿った衛生管理)
食品衛生法とは、飲食による衛生上の危害を防ぐための法律で、宿の厨房で調理して提供するには飲食店営業などの許可が要る。施設ごとに食品衛生責任者を置き、2021年6月からは原則すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が求められている。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
許可証で営業者名・施設・業種(飲食店営業、菓子製造業など)を確かめ、売店や外部委託の厨房は名義を分けて洗い出す。事業譲渡では譲受人による地位承継の届出の仕組みがあるが、厨房の移設や提供方法の変更は新規許可が要ることがある。衛生管理計画と日々の記録、食品衛生責任者の後任を引渡し前に決める。
- 038消防法令適合通知書消防法令適合通知書(旅館業の許可申請などで添付を求められる、消防機関が消防法令への適合を確認した通知書)
消防法令適合通知書とは、旅館・ホテルなどの営業者の申請を受け、消防長または消防署長が立入検査などで防火対象物の消防法令への適合状況を確かめて交付する通知書である。旅館業の許可申請などで、保健所から添付を求められることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
通知書は交付時点の状況を示すもので、その後の増改築や設備の不良、点検報告の未提出までは保証しない。通知書の対象建物・日付と現況を照らし、消防用設備等の点検結果報告、指摘事項の改修記録、防火管理の体制を合わせて確かめる。承継や改修のときに改めて取得が要るかは、保健所と所轄消防署で確認する。
- 039特定防火対象物特定防火対象物(消防法施行令別表第1(5)項イ:旅館・ホテル・宿泊所)
特定防火対象物とは、不特定多数の人が出入りするなど火災時の危険が大きい用途の防火対象物で、旅館・ホテル・宿泊所その他これらに類するものは消防法施行令別表第1(5)項イに当たる。消防用設備等の基準や点検報告で、より厳しい扱いを受ける。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
特定防火対象物では、消防用設備等の技術基準が改正されると既存の建物にも新基準への適合が求められるため、古い宿ほど未設置・不良がないかを点検結果報告で確かめる。点検報告は1年に1回で、収容人員などの条件により防火対象物定期点検報告も対象になる。他用途と同居する建物は複合用途としての扱いを所轄消防署に確認する。
- 040消防用設備等の設置基準自動火災報知設備・スプリンクラー設備・屋内消火栓・誘導灯の設置基準
消防用設備等の設置基準とは、防火対象物の用途・延べ面積・階数・構造などに応じ、自動火災報知設備、スプリンクラー設備、屋内消火栓設備、誘導灯などの設置を求める消防法令の基準である。旅館・ホテルの自動火災報知設備は2015年4月から延べ面積にかかわらず原則設置となった。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
設備の一覧と点検票を図面と照らし、増築部分・別館・地階を含めて設置漏れや不良がないかを確かめる。スプリンクラーや屋内消火栓は規模・構造で要否が分かれ、増築や用途の変更で新たに必要になることがある。受信機や非常電源の更新時期、改修の見積り、指摘事項の是正記録を受け取り、費用の負担を契約で決める。
- 041防火管理者(甲種・乙種)防火管理者(甲種・乙種)の選任と消防計画・避難訓練義務
防火管理者とは、一定規模以上の防火対象物で管理権原者が選任し、消防計画の作成、消火・通報・避難の訓練、設備の維持管理などを行う者である。旅館・ホテルでは収容人員30人以上で選任が必要で、延べ面積300㎡以上は甲種、未満は乙種の資格で足りる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
譲渡後は管理権原者が替わるため、新しい体制で防火管理者を選任して所轄消防署へ届け出て、消防計画も見直す。特定防火対象物では消火訓練と避難訓練を年2回以上行うので、訓練記録と夜間の人員で避難誘導が回るかを確かめる。資格を持つ人がいることと、その施設で選任・届出がされていることは別に確認する。
- 042風営法とラブホテル規制条例風営法・ラブホテル規制条例(モーテル類似施設・偽装ラブホテルから一般ホテルへの転用基準)
風営法とラブホテル規制条例とは、専ら異性を同伴する客の宿泊・休憩に使わせる施設(ラブホテル等)を、風営法が店舗型性風俗特殊営業(第2条第6項第4号)として届出・営業制限の対象とし、自治体の条例が建築や構造を規制する仕組みである。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
一般ホテルへの転用では、現在の営業が風営法の届出営業か旅館業だけかを確かめ、廃止の届出、構造・設備(客室と車庫の関係、料金表示など)の基準、条例の規制区域、旅館業許可の内容を所轄警察署・保健所・建築担当に確認する。届出の廃止だけで区分が変わるわけではなく、営業実態と設備をそろえて説明する。
- 043浄化槽法・水質汚濁防止法浄化槽法・水質汚濁防止法(特定施設届出・排水基準・合併処理浄化槽の維持管理)
浄化槽法は、下水道のない地域の宿などで汚水を処理する浄化槽の設置・保守点検・清掃・法定検査を定める法律で、水質汚濁防止法は、特定施設から公共用水域へ排水する事業場を届出や排水基準で規制する法律である。旅館業の厨房・洗濯・入浴施設は特定施設に当たる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
浄化槽の種類(単独処理か合併処理か)、処理能力と現在の客数・浴場の排水量、保守点検と法定検査の記録、指摘事項を確かめる。特定施設の届出の有無と排水の測定結果、条例の上乗せ基準も確認し、承継では管理者や設置者の変更の届出が要る。更新費は大きくなりやすく、下水道への接続予定も自治体に確かめる。
- 044レジオネラ症防止対策レジオネラ症防止対策(循環式浴槽のろ過器・塩素消毒・残留塩素濃度記録・自主検査)
レジオネラ症防止対策とは、循環式浴槽や貯湯槽、配管で増えやすいレジオネラ属菌による感染を防ぐため、ろ過器の逆洗・清掃、配管の生物膜除去、塩素などによる消毒と残留塩素濃度の測定・記録、浴槽水の定期的な水質検査を行う衛生管理である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
厚生労働省の管理要領と自治体の条例で求められる測定・検査・換水・清掃の頻度を確かめ、過去の記録に抜けがないか、レジオネラ属菌の検出や営業停止の履歴がないかを保健所の指導記録とあわせて確認する。温泉の成分によって塩素の効き方が変わるため、消毒方法と設備の更新計画は保健所・専門業者と詰める。
- 045サウナ・プール・遊興施設の追加規制遊興施設・サウナ・プール付帯時の保健所・消防上の追加規制
サウナ・プール・遊興施設の追加規制とは、宿にサウナやプール、カラオケ・バー・ゲームコーナーなどを付けるときに、旅館業の許可とは別に、公衆浴場法、火災予防条例、プールの衛生基準・条例、風営法などで求められる許可・届出・設備の基準である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
サウナは火災予防条例による届出や構造の基準、外来利用なら公衆浴場業の許可、プールは自治体の条例・衛生基準と監視体制を確かめる。深夜の酒類提供や遊技機の設置は、風営法の許可・届出の要否を警察に確認する。用途が加わると消防用設備等の基準が変わることがあり、増設の前に保健所・消防・警察へ相談する。
CATEGORY 04 — 15語
温泉法・源泉・湯守実務
- 046温泉法上の「温泉」の定義温泉法上の「温泉」の定義(源泉温度25℃以上または指定19物質のいずれかを含有)
温泉法上の「温泉」とは、地中から湧出する温水・鉱水・水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、湧出口での温度が25℃以上、または別表に定める19の物質のいずれか一つ以上を規定量以上含むものをいう。温泉の採取・利用の許可はこの定義を前提とする。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
温泉法上の温泉に当たることと、療養泉に当たることや浴用に適していることは別である。温泉分析書で湧出地・採取日・泉温・該当成分を確かめ、温度ではなく成分で温泉に当たる源泉は、成分の変化で要件を外れていないか再分析の結果も見る。広告の「天然温泉」の表示と分析書・掲示の内容が一致しているかも確認する。
- 047温泉掘削・増掘・動力装置の許可温泉掘削許可・増掘許可・動力装置許可(都道府県知事および審議会の許可手続)
温泉掘削・増掘・動力装置の許可とは、温泉を湧出させる目的で土地を掘削する、既存の源泉を掘り増す、湧出量を増やすためにポンプ等の動力を付けるときに、温泉法に基づき都道府県知事から受ける許可で、知事は審議会などの意見を聴いて判断する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
源泉の許可書・台帳で、掘削・増掘・動力の許可の有無と内容(口径・深度・ポンプの能力など)を確かめ、現況の設備と一致するかを見る。ポンプの更新で能力が上がる場合や井戸の掘り直しは新たな許可が要ることがあり、周辺源泉への影響から許可が出にくい地域もある。更新計画は事前に都道府県の温泉担当へ相談する。
- 048温泉採取許可とガス濃度確認温泉採取許可・可燃性天然ガス安全確認(メタンガス対策)
温泉採取許可とは、2008年10月施行の改正温泉法で設けられた、温泉の採取に伴う可燃性天然ガス(メタンなど)による災害を防ぐための許可制度である。ガスの濃度が基準を下回るとして都道府県知事の確認を受けた源泉は、採取許可を要しない。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
源泉ごとに採取許可とガス濃度確認のどちらを受けているかを許可書で確かめ、ガス分離設備・換気・警報設備などの基準への適合と保守記録を見る。承継の扱いは許可か確認か、譲渡・合併・相続のどれかで異なり、ガス濃度確認には承継の届出の仕組みがある。採取者の名義の変え方は都道府県の窓口で確認する。
- 049温泉利用許可温泉利用許可(浴用・飲用に供するための都道府県知事等の許可(窓口は多くの場合保健所):事業譲渡時の再取得・承継の注意点)
温泉利用許可とは、温泉を公共の浴用または飲用に供しようとする者が、温泉法に基づき都道府県知事等から受ける許可で、窓口は多くの場合保健所である。旅館の浴場で温泉を使うときに必要で、源泉側の掘削・採取の許可とは別の手続である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
許可の名義・施設・浴用か飲用かを許可書で確かめる。法人の合併・分割には承認による承継の制度があるが、事業譲渡や施設の売却では新たな許可が要ると案内する自治体もある。旅館業の承継承認を得ても温泉の利用許可は引き継がれない前提で、新規・承認・届出のどれを使うか窓口に確認し、成分等の掲示も更新する。
- 050源泉権(温泉権)源泉権(湯口権・引湯権・分湯権・鉱泉地所有権・温泉組合加入権の法的性質)
源泉権とは、源泉から温泉を採取・利用する権利をまとめた呼び名で、源泉地(地目が鉱泉地の土地など)の所有権、慣習上の湯口権、他人の源泉から湯を引く引湯権・分湯権、温泉組合員としての権利などを含む。根拠は登記・契約・慣習・組合規約と一つではない。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
「温泉権付き」という表示だけで判断せず、源泉地の登記、源泉までの土地や配管の地役権・賃借権、供給契約・組合規約、温泉法の許可を一つずつ確かめる。慣習上の権利は第三者に主張するのに公示が要るとされ、地域で扱いが違う。譲渡に組合や供給者の承認が要るか、名義変更の手続と費用も確認し、権利の判断は弁護士に相談する。
- 051自家源泉と集中管理自家源泉と集中管理(引湯・配湯組合・財産区・市営分湯場からの受湯契約)
自家源泉とは、宿が自ら源泉を所有・管理して湯を採取する形をいい、集中管理とは、温泉地の複数の源泉を組合・財産区・自治体などがまとめて貯湯・配湯し、各施設が受湯契約に基づいて湯を受ける形をいう。源泉の保護と湯量の安定などのために導入される。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
自家源泉は許可・設備・揚湯の費用を自ら負い、ポンプや井戸の故障が営業に直結するため、湧出量の推移と更新費を確かめる。受湯の場合は供給契約・組合規約で、配湯量の上限、料金改定、加入・名義変更の条件、供給停止時の扱い、配管の管理区分を確認し、買主への権利移転に承認が要るかを供給者に前もって照会する。
- 052内湯使用許可と配湯料金内湯使用許可と配湯料金(基本使用料・超過使用料・口径契約の仕組み)
内湯使用許可と配湯料金とは、配湯を受ける宿が館内の浴場(内湯)で温泉を使うために、組合・財産区・自治体などの配湯者から受ける使用の承認と、その対価として払う料金をいう。料金は加入金のほか、基本使用料と超過使用料、引湯管の口径や流量に応じた契約などで定める。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
内湯使用の承認は温泉法の許可ではなく、規約・契約上の権利であることが多い。承認が建物・営業者・口数のどれに付くのか、譲渡時の名義変更料や再加入金、料金の改定履歴と未払の有無、超過使用の精算方法を規約と請求書で確かめる。地域によっては内湯の新設や口数の増加が制限されていることもある。
- 053湧出形態(自噴・足元湧出・動力揚湯)湧出形態の区分(自噴泉・足元湧出泉・掘削動力揚湯泉)
湧出形態とは、温泉が地表に出てくる仕方の区分で、自然に湧き出す、または掘削した井戸から圧力で噴き出す「自噴」、浴槽の底から直接湧く「足元湧出」、ポンプなどの動力でくみ上げる「動力揚湯」などがある。自噴か動力かは温泉分析書などで確かめられる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
自噴泉は動力の費用がかからない一方、湧出量や温度が自然条件で変わりうる。動力揚湯泉は、ポンプ・エアリフトの方式、設置深度、更新時期と費用、停電時に揚湯が止まるかを確かめる。足元湧出は浴槽の構造と源泉が一体のため、改修の制約が大きい。湧出量・温度の推移を過去の分析書で見比べる。
- 054源泉かけ流しと循環ろ過式源泉かけ流し(完全放流式)と循環ろ過式の違い・併用式
源泉かけ流しとは、浴槽に温泉を注ぎ、あふれた湯を再使用せずに流す方式(完全放流式)で、循環ろ過式は浴槽の湯をろ過・消毒して再び戻す方式である。時間帯や浴槽によって両方を使い分ける「併用式」もある。かけ流しでも加水・加温・消毒をする場合がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
かけ流しの表示は湯量と浴槽の容量・数の釣り合いで成り立つため、湧出量・配湯量と浴槽ごとの方式を設備図で確かめる。温泉法により加水・加温・循環ろ過・入浴剤の添加・消毒の有無と理由の掲示が求められ、掲示と実際の運用が一致しているかを見る。循環式はろ過器や配管の衛生管理と更新費、かけ流しは排湯の熱回収も検討する。
- 055温泉成分分析書と温泉成分等の掲示温泉成分分析書(10年ごとの再分析義務)と温泉成分等掲示(加温・加水・循環・入浴剤・消毒の5項目表示義務)
温泉成分分析書とは、登録分析機関が温泉の成分を分析した結果を記した書面である。温泉法により、温泉を公共の浴用・飲用に供する者は成分・禁忌症・入浴上の注意などを掲示し、10年ごとに再分析を受ける。加温・加水・循環ろ過・入浴剤の添加・消毒の5項目も、実施の有無と理由を掲示する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得時は分析書の分析日・対象源泉・分析機関を確かめ、10年の期限が近い場合は再分析の費用と日程を誰が負担するか決める。現地の掲示と分析書、実際の加水や循環の運用が一致しているか、複数源泉の混合や引湯先で表示が合っているかも照合する。掲示の名義や内容は、温泉利用許可の手続と合わせて更新する。
- 056療養泉の10泉質療養泉の10大泉質分類(単純温泉・塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉・二酸化炭素泉・含鉄泉・酸性泉・含よう素泉・硫黄泉・放射能泉)
療養泉の10泉質とは、環境省の鉱泉分析法指針で療養泉に当たる温泉を主な成分で分けた区分であり、単純温泉・塩化物泉・炭酸水素塩泉・硫酸塩泉・二酸化炭素泉・含鉄泉・酸性泉・含よう素泉・硫黄泉・放射能泉の10種類をいう。2014年の指針改訂で現在の区分となった。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
泉質名は分析書の結果に基づくもので、広告やパンフレットの表記と分析書の泉質・適応症が一致しているか確かめる。再分析で成分が変わり、泉質名や掲示の内容が変わる例もあるため、過去の分析書と見比べる。硫黄泉・酸性泉などは配管や設備の腐食に関わるので、設備の更新費の見積りとあわせて読む。
- 057温泉のpH(液性)と浸透圧pH(水素イオン濃度指数:酸性・中性・アルカリ性)と浸透圧(低張性・等張性・高張性)
温泉のpHと浸透圧とは、鉱泉分析法指針による分類で、pHは液性を酸性(3未満)から弱酸性・中性・弱アルカリ性・アルカリ性(8.5以上)に分け、浸透圧は溶存物質総量(ガス性を除く)で低張性(8g/kg未満)・等張性・高張性(10g/kg以上)に分ける指標である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
分析書のpHと浸透圧は、浴槽の衛生管理や設備の傷み方を考える手がかりになる。アルカリ性の湯は塩素系消毒の効き方に影響しうるため、消毒の方法と記録を保健所の指導と照らす。酸性泉は配管・ポンプ・熱交換器の腐食、溶存物質の多い湯は析出物の付着が論点になりやすく、更新履歴と見積りを確かめる。
- 058スケール(温泉沈殿物)と配管洗浄スケール(温泉沈殿物:炭酸カルシウム・シリカ等)の付着と配管・熱交換器洗浄(ジャンピング洗浄・薬品洗浄)
スケールとは、温泉の成分が温度や圧力の変化で析出し、配管・ポンプ・熱交換器・浴槽などに付着した沈殿物であり、炭酸カルシウムやシリカなどが代表的である。管の内径が狭まると流量や熱交換の効率が落ちるため、物理的な洗浄や薬品による洗浄で定期的に取り除く。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得前に洗浄の頻度・方法・費用と、詰まりによる湯量低下や休館の履歴を記録で確かめる。洗浄方式(ジャンピング洗浄などの名称で提供される物理洗浄、薬品洗浄)は泉質や管材との相性があり、薬剤を含む排水の処理も確認する。洗浄口のない引湯管は、更新時に清掃の経路を設計し直す。
- 059エアリフト方式と水中ポンプ方式エアリフト方式と水中ポンプ方式(揚湯設備の更新費・耐用年数・停電時リスク)
エアリフト方式と水中ポンプ方式とは、源泉井から温泉をくみ上げる揚湯の方法の区分であり、エアリフト方式は地上のコンプレッサーから井戸内の管に空気を送り、気泡の浮力で湯を押し上げる。水中ポンプ方式は、井戸内に沈めた電動ポンプで湯を揚げる方式である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
どちらも電力で動くため、停電時は揚湯が止まる前提で非常用電源や貯湯量を確かめる。コンプレッサー・ポンプ・揚湯管の更新時期と費用、引上げ工事の実績を記録で確認する。湧出量を増やす動力装置の設置・変更は温泉法の許可が論点となるため、既存の許可の内容と更新後の仕様を比べて都道府県に相談する。
- 060国民保養温泉地と温泉保護地域国民保養温泉地(環境大臣が指定する温泉地)と温泉保護地域(都道府県が要綱等で定める掘削規制の区域)
国民保養温泉地とは、温泉法に基づき環境大臣が、温泉の公共的な利用を増進するため、効能・湧出量・環境などが適した温泉地を指定するものである。これとは別に都道府県は、源泉を守るため、既存の源泉からの距離などで新たな掘削を制限する地域を要綱や基準で定めていることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
国民保養温泉地の指定は温泉地の性格を示すもので、個々の旅館の許可や源泉の権利を保証するものではない。取得後に新たな掘削や増掘を考える場合は、所在地の都道府県が定める保護地域や距離の制限、審議会の手続を先に確かめる。温泉地の計画や湯の使い方の地域の取り決めも確認する。
CATEGORY 05 — 15語
建築基準法・都市計画・自然公園・文化財
- 061既存不適格建築物と違反建築物既存不適格建築物と違反建築物の決定的な違い(遵法性調査のポイント)
既存不適格建築物とは、建築時の法令には適合していたが、その後の法改正や都市計画の変更で現行の規定に合わなくなった建築物であり、建築基準法第3条第2項によりその規定の適用を受けない。これに対し違反建築物は、建築時から法令に適合しない、または無断の増改築などで違反となった建築物をいう。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
建築年だけで判断せず、確認済証・検査済証・増改築の履歴・現況を規定ごとに照合する。違反部分があると、融資や増築・用途変更の確認申請が進まないことがある。既存不適格でも、増築・用途変更・大規模の修繕などを行うと現行規定への適合を求められる範囲があるため、工事計画の前に建築士と特定行政庁へ確認する。
- 062検査済証とガイドライン調査検査済証(完了検査合格証)の有無と「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査(ガイドライン調査)」
検査済証とは、建築確認を受けた工事の完了後、完了検査で建築基準法令への適合が認められた建築物に交付される書面である。検査済証のない既存建築物は、国交省のガイドラインに沿って建築士や指定確認検査機関が図面と現地で適合状況を調べ、増築や用途変更の前提となる資料をつくることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
検査済証の有無は融資や増築・用途変更の手続に影響する。原本がなければ、行政の台帳記載事項証明などで交付の記録を照会する。検査済証があっても、その後の増改築や変更までは確認していない。ガイドラインは改定・統合されることがあるため、国交省の最新の指針と調査の費用・期間を建築士に確かめる。
- 063用途変更の建築確認申請用途変更の建築確認申請(類似用途間以外の変更で床面積200㎡超の場合の手続)
用途変更の建築確認申請とは、建築物の用途を変えて特殊建築物とする場合に、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるとき、建築基準法により必要となる確認の手続である。2019年6月施行の改正で100㎡から引き上げられ、政令で定める類似の用途相互間の変更は不要とされる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
200㎡以下で確認申請が不要でも建築基準法令への適合は必要で、旅館業許可の際に建築士による適合の確認書類を求められることがある。用途変更には完了検査がなく、工事完了の届出などの扱いも確かめる。面積を分けて申請を避ける計画はとらず、消防・保健所と同じ図面で事前に相談する。
- 064大規模の修繕・大規模の模様替大規模の修繕・大規模の模様替(主要構造部の一種以上の過半の改修と2025年4月改正建築基準法の影響)
大規模の修繕・大規模の模様替とは、建築基準法で、建築物の主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段)の一種以上について行う過半の修繕・模様替をいう。2025年4月施行の改正でいわゆる4号特例が縮小され、木造2階建てなどの新2号建築物もこれらの工事で確認申請が要るようになった。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
屋根の葺き替えや外壁・床の大きな改修は、工事の範囲によって確認申請の対象となりうる。旅館・ホテルは特殊建築物で、一定の規模を超えるものは改正前から対象である。取得後の改修計画は確認申請・既存不適格の扱い・工期と費用に影響するため、見積りの前に建築士と範囲を整理し、増築を伴う場合は省エネ基準の扱いも確かめる。
- 065定期報告制度(建築基準法第12条)特殊建築物定期調査・建築設備定期検査・防火設備定期検査(定期報告制度)
定期報告制度とは、建築基準法第12条により、特定行政庁が指定するなどした特殊建築物等の所有者・管理者が、資格者に建物・建築設備・防火設備・昇降機などを定期に調査・検査させ、結果を特定行政庁へ報告する制度である。旅館・ホテルは規模などにより対象となり、周期は対象ごとに定められる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得時は直近の報告書と指摘事項、是正の完了記録、次回の期限を確かめる。報告済みでも指摘が是正されているとは限らない。所有者と運営者が別の場合は、報告の義務者と費用負担、未是正の工事を誰が行うかを契約で決め、保守会社との契約に報告書の作成・提出が含まれるかも確認する。
- 066耐震診断と耐震改修促進法耐震診断・耐震改修促進法(昭和56年5月31日以前の旧耐震基準建築物・要緊急安全確認大規模建築物)
耐震診断とは、既存建築物の地震に対する安全性を評価する調査である。耐震改修促進法は、旧耐震基準(1981年5月31日以前に建築確認)の建築物に診断と改修を促し、2013年11月施行の改正で、階数3以上かつ床面積5,000㎡以上のホテル・旅館を、診断の義務と結果公表の対象とした。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旧耐震の建物は、診断の有無と結果、改修の履歴を確かめ、公表対象の施設は自治体の公表内容も見る。耐震性の不足は融資・保険・取得後の改修費に直結するため、診断費と補強工事の概算を価格交渉の前に把握する。竣工年ではなく確認の日付と増築部分の時期で判断し、補助制度は自治体ごとに確認する。
- 067防火区画と排煙設備・非常用照明防火区画(面積区画・高層区画・竪穴区画・異種用途区画)と排煙設備・非常用照明
防火区画とは、建築基準法令に基づき、火災の拡大を防ぐため建築物の内部を耐火構造の床・壁や防火設備で区切るもので、面積区画・高層区画・竪穴区画・異種用途区画がある。旅館・ホテルでは、煙を外へ出す排煙設備や、停電時に避難経路を照らす非常用の照明装置も求められることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
客室の連結、吹抜けの新設、宴会場の転用、階段まわりの改修は区画の変更を伴いやすく、防火戸の作動不良や配管の貫通部の埋戻し不足は定期報告で指摘されることがある。取得前に図面上の区画と現況、防火設備の検査記録を照合し、改修計画は建築と消防の双方に示して確認する。
- 068接道義務(建築基準法第43条)接道義務(建築基準法第43条:幅員4m以上の道路に2m以上接する義務と但し書き許可(現在は第43条第2項の認定・許可)・条例による付加制限)
接道義務とは、建築基準法第43条により、建築物の敷地が原則として幅員4m以上の道路に2m以上接しなければならないという規定である。満たさない敷地でも、同条第2項の認定・許可(2018年改正前のいわゆる但し書き許可)で建築できる場合があり、条例で付加的な制限が加わることもある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
前面道路が建築基準法上の道路か、幅員4m未満の道路でセットバックが要るかを役所の道路台帳や指定図で確かめる。過去に許可で建てた建物でも、建替えで同じ許可が得られるとは限らない。旅館・ホテルなどの特殊建築物は条例で接道の長さが加重されることがあり、私道なら通行・掘削の承諾も確認する。
- 069用途地域と市街化調整区域用途地域と市街化調整区域(都市計画法上のホテル・旅館建築制限)
用途地域とは、都市計画法に基づき土地利用を13種類に分ける地域で、建築基準法により建てられる用途が決まる。ホテル・旅館は第一種住居地域(3,000㎡以下)や商業系などで建てられ、低層住居専用地域や工業地域では建てられない。市街化調整区域は市街化を抑える区域で、開発・建築が原則制限される。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
既存の宿が用途地域の指定変更で既存不適格になっていないか、増築や建替えができるかを確かめる。市街化調整区域では、既存建物の用途変更や建替えにも都市計画法の許可が要る場合があり、過去の許可の内容と条件を自治体で確認する。地区計画や条例による上乗せの制限も合わせて見る。
- 070自然公園法の行為規制自然公園法(国立公園・国定公園の特別保護地区・第1種〜第3種特別地域・普通地域における工作物新築・改築・色彩変更許可)
自然公園法の行為規制とは、国立公園・国定公園の区域で、特別保護地区や第1種〜第3種特別地域では工作物の新築・改築・増築や屋根・壁面の色彩の変更などに許可を、普通地域では一定規模以上の行為に届出を求める仕組みである。許可権者は国立公園が環境大臣、国定公園が都道府県知事である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
建物の所在地だけでなく、露天風呂・看板・駐車場・引湯管の位置を地種区分の図に重ねて確かめる。既存の宿があることは、増築や外観の変更が許可される根拠にならない。国立公園事業の認可を受けた宿舎は、事業の承継に承認が必要となる場合があるため、自然保護官事務所などに早めに相談する。
- 071森林法と河川法・海岸法・砂防法森林法(保安林・地域森林計画対象民有林の開発許可・伐採届)と河川法・海岸法・砂防法
森林法と河川法・海岸法・砂防法とは、山間や水辺の宿の土地利用を制限する主な法律である。森林法は保安林での伐採・土地の形質変更の許可、地域森林計画の対象民有林での開発許可と伐採届を定め、河川法は河川区域の占用、海岸法は海岸保全区域、砂防法は砂防指定地での行為を規制する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
敷地や駐車場・遊歩道・露天風呂が保安林、河川区域、海岸保全区域、砂防指定地にかかっていないかを指定図で確かめる。占用の許可には期間・目的・名義があり、取得に伴って承認や新たな申請が要ることがある。無許可の造成や工作物は是正を求められうるため、過去の許可書と現況を照合する。
- 072景観法と景観条例景観法・景観条例(景観計画区域・景観形成重点地区における外観・屋根・色彩・屋外広告物の届出)
景観法とは、良好な景観の形成を図る法律で、景観行政団体が定める景観計画区域では、建築物の新築・増改築や外観の変更、色彩の変更などに届出を求め、基準に合わないときは勧告や変更命令ができる。自治体が独自に定める重点地区の基準や、屋外広告物の許可は条例で定められる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
外壁や屋根の塗り替え、看板の更新、照明の演出など小さな改修でも届出や許可が要る地域がある。景観法の届出は着手の30日前までで、取得後の改装計画と工期に影響する。既存の看板が許可を受けているか、許可の期限と更新の手数料、条例の基準に合っているかも確かめる。
- 073風致地区条例風致地区条例(建蔽率・壁面後退・高さ・緑化率・色彩の許可基準)
風致地区条例とは、都市計画法に基づいて都市の自然的な景観を維持するため定められた風致地区で、建築物の建築、宅地の造成、木竹の伐採などを許可制とし、建蔽率・高さ・壁面の後退・緑化・色彩などの基準を地方公共団体が条例で定めるものである。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
温泉街や湖畔、社寺の周辺は風致地区に指定されていることがあり、建替えでは現況より小さな建物しか建てられない場合がある。既存の建物が基準に合っているか、樹木の伐採や駐車場の造成に許可が要るかを確かめ、取得後の改修や増室の計画を許可権者に事前に示して相談する。
- 074文化財保護法(重要文化財・登録有形文化財)文化財保護法(重要文化財・登録有形文化財の現状変更届出/許可・保存活用計画・固定資産税減免措置)
文化財保護法とは、文化財の保存と活用を図る法律であり、重要文化財の建造物は現状変更に文化庁長官の許可を要し、登録有形文化財の建造物は一定の現状変更に届出を要する。保存活用計画の認定や修理への補助の制度があり、関連して固定資産税の非課税・軽減などの措置もある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
老舗旅館の本館や門が登録有形文化財などに当たる場合、客室の改修・設備の更新・外観の変更が許可や届出の対象となり、工期と費用が増えることがある。所有者の変更には届出が要り、補助を受けた修理の条件が残っていないかも確かめる。税の軽減の内容は文化財の種類で異なるため、市町村と文化庁に確認する。
- 075周知の埋蔵文化財包蔵地周知の埋蔵文化財包蔵地(掘削工事前の届出・試掘調査・本調査リスク)
周知の埋蔵文化財包蔵地とは、貝塚・古墳・集落跡など埋蔵文化財の存在が知られ、自治体の遺跡地図などに示された土地である。文化財保護法により、この土地で土木工事などのために掘削する場合は、着手の60日前までに届け出なければならず、試掘や発掘の調査を求められることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
敷地や駐車場、増築の予定地が包蔵地やその隣接地に当たるかを、市町村の教育委員会の遺跡地図で確かめる。届出の後に試掘・確認調査、保存が難しいときは本調査(記録保存の発掘調査)を求められ、期間と費用が工程に加わることがある。費用の負担は事業の内容で異なるため、計画段階で教育委員会に相談する。
CATEGORY 06 — 15語
改修・設備更新・省人化DX・モアバリュー
- 076モアバリュープランニングモアバリュープランニング(形を変え、運営を変え、返済後CFを最大化するTSUNAGU独自の再生手法)
モアバリュープランニングとは、TSUNAGUが提唱する宿泊施設の再生設計の考え方であり、建物や風景、人の仕事など受け継ぎたい価値を見極めたうえで、形と使い道を組み直し、運営を仕組みにし、取得費・改修費・運転資金と返済後のキャッシュフローまでを月ごとに結んで計画する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
計画の前提となる許認可(旅館業・建築・消防・温泉)、販売単位・稼働率・単価、改修費の見積り、融資の条件を同じ資料でそろえる。営業が計画を下回った場合の返済後キャッシュフローも試算し、手元に残す資金を決める。試算は計算の例であり、実際の融資条件や収益を保証するものではない。
- 077築古建物の短期減価償却(中古資産の簡便法)築古建物の短期減価償却(法定耐用年数経過後の簡便法:木造旅館用3年/木造住宅用4年/RC旅館用7年(木造内装が延べ面積の3割超は6年)等)
築古建物の短期減価償却とは、中古の建物を取得したとき、法定耐用年数の全部を経過していれば「法定耐用年数×20%」、一部経過なら「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」(1年未満切捨て、2年未満は2年)で見積もった短い耐用年数で償却する方法である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
木造の旅館・ホテル用は法定17年で全部経過なら3年、木造住宅用は22年で4年、RC旅館・ホテル用は39年で7年となる。価値を高める改修が一定の割合を超えると簡便法を使えない場合があり、土地・建物の按分の根拠も問われる。償却は税負担の時期を前に寄せるもので、売却時の譲渡益は大きくなる。判断は税理士へ。
- 078スマートロック・セルフチェックイン機スマートロック・セルフチェックイン機(本人確認・宿泊者名簿取得・暗証番号/QR発行によるフロント無人化・省人化)
スマートロック・セルフチェックイン機とは、宿泊者が端末で本人確認と宿泊者名簿の記入、決済を行い、暗証番号やQRコードで玄関や客室を解錠できるようにする機器であり、フロント業務の省人化や無人運営に使われる。旅館業法の玄関帳場の代替となる設備として扱われる場合がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
無人・省人運営は、旅館業法の構造設備基準や条例、保健所の指導(本人確認の方法、緊急時に駆け付ける体制、名簿の保存)を満たす必要があり、地域で条件が違う。取得時は機器の所有・リース・月額契約の承継、管理者アカウントの移管、通信断や停電のときの解錠手順と予備鍵の管理を確かめる。
- 079PMS・サイトコントローラー・ブッキングエンジンPMS(Property Management System/ホテル基幹システム)とサイトコントローラー(チャネルマネージャー)・ブッキングエンジン
PMS(Property Management System)とは、予約・部屋割り・チェックイン・会計・顧客情報を管理する宿泊施設の基幹システムである。サイトコントローラーは複数のOTAの在庫と料金を一元管理し、ブッキングエンジンは自社サイトで予約を受ける仕組みで、三つを連携して使う。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
承継では、契約の名義・管理者アカウント・顧客データと過去の予約履歴を移せるか、解約時のデータの取出し方法と費用を確かめる。引渡し日をまたぐ予約の売上と前受金の帰属、OTAの施設アカウントの名義変更、個人情報を引き継げる範囲も整理し、試験予約で連携が正しく動くかを確認する。
- 080レベニューマネジメントレベニューマネジメント(ダイナミックプライシング/需要連動型価格設定)
レベニューマネジメントとは、需要の予測に基づいて客室の販売価格と販売数量、販売経路を調整し、売上や利益を最大化する手法であり、曜日・季節・予約の状況などに応じて料金を変えるダイナミックプライシングはその代表的な手段である。成果の指標にはADR・OCC・RevPARが使われる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得前は、過去の料金表と実績のADR・稼働率・販売経路別の売上を月ごとに確かめ、単価を上げて作った数字か、値下げで稼働を作った数字かを見分ける。料金設定ツールの契約と設定、OTAとの契約条件を引き継げるかを確認し、清掃や食事の対応能力を超える販売をしていないかも見る。
- 081泊食分離泊食分離(1泊2食付き固定からの脱却・素泊まり+地域飲食店連携・ケータリング/半調理品活用)
泊食分離とは、1泊2食付きを基本とする旅館の販売を見直し、宿泊と食事を分けて販売する運営方法であり、素泊まりや朝食のみのプランに、地域の飲食店との連携、ケータリング、半調理品の活用などを組み合わせて、厨房の人手と食材の負担を減らすものである。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
夕食をやめる前に、周辺の飲食店の定休日・席数・営業時間、到着の遅い客や夜の移動手段を確かめる。客単価は下がるため、売上の減少と食材費・人件費の削減を分けて試算する。外部の料理を館内で出す場合は、提供の方法に応じた食品衛生法の許可や衛生管理を保健所に確認する。
- 082オールインクルーシブ運営オールインクルーシブ運営(ラウンジ飲料・湯上がり体験等を宿泊料金に含め、会計業務削減とADR向上を両立する手法)
オールインクルーシブ運営とは、ラウンジの飲料や館内の体験など、従来は追加で精算していた料飲・サービスを宿泊料金に含めて販売する運営方式である。チェックアウト時の個別会計を減らせる一方、提供原価が料金に固定で乗るため、消費量の見込みと単価設定が収益を左右する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得前に、料金に含める品目の範囲と一人当たりの原価、飲料の仕入れ契約、ラウンジの人員配置を過去の実績で確かめる。酒類の提供方法や未成年への対応、食品衛生の許可の範囲も見直す。導入して間もない宿は、ADRの上昇分と原価・人件費の増加分を分けて試算し、導入前後の比較が同じ条件か確認する。
- 083客室露天風呂・プライベートサウナ増設客室露天風呂・半露天風呂・プライベートサウナ増設による高単価化改修
客室露天風呂・プライベートサウナ増設とは、客室に専用の露天風呂・半露天風呂やサウナを設け、客室単価(ADR)の引き上げを狙う改修である。給湯・排水の容量、防水と構造の荷重、温泉を使う場合の引湯量と利用許可、浴槽の衛生管理を一体で検討する必要がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
既に増設された客室は、確認申請の要否(増築・大規模の模様替などに当たるか)、給湯能力と源泉の湯量・配湯契約の上限、バルコニー防水と下階への漏水歴を確かめる。温泉を引く場合は浴槽の追加に伴う利用許可の手続を保健所に、循環式ならレジオネラ対策の記録も確認する。投資回収は増設室のADRと稼働の実績で検証する。
- 084熱源・給湯設備の更新熱源・給湯設備更新(重油・灯油ボイラーから高効率ガス給湯器・業務用エコキュート・ハイブリッド給湯・温泉排熱回収への転換)
熱源・給湯設備の更新とは、重油・灯油ボイラーなど老朽化した熱源を、高効率ガス給湯器、業務用ヒートポンプ給湯機、両者を組み合わせたハイブリッド方式、温泉排湯の熱回収などへ切り替える工事である。燃料費、ピーク時の給湯量、設置場所、停電時の運転を比べて方式を選ぶ。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
買収前に、熱源機の製造年と点検記録、ばい煙発生施設や危険物(重油タンク)に関する届出、地下タンクの漏えい検査歴を確かめる。大浴場のピーク給湯量に対し、ヒートポンプ単独では能力や貯湯量が足りない場合がある。更新費に補助金を使うなら、交付決定前の発注は原則対象外なので、工程と公募時期を合わせる。
- 085受変電設備(キュービクル)とBCP対策受変電設備(キュービクル)と自家発電設備・蓄電池・BCP(事業継続計画)対策
受変電設備(キュービクル)とは、電力会社から高圧で受けた電気を館内で使う低圧に変える設備で、自家発電設備・蓄電池と合わせて停電時の事業継続計画(BCP)の要となる。高圧で受電する施設は電気事業法上の自家用電気工作物に当たり、電気主任技術者による保安管理が必要である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得時は、キュービクルの製造年と年次点検の記録、保安管理業務の委託契約、PCBを含む古い変圧器・コンデンサの有無を確かめる。非常用発電機は消防用設備の非常電源を兼ねることが多く、点検の実施記録も見る。停電時に給水ポンプ・源泉ポンプ・エレベーターのどれを動かせるかを確認する。
- 086給排水管の更生・更新工事給排水管更生工事・更新工事(赤水・漏水対策・架橋ポリエチレン管への更新)
給排水管の更生工事とは、既存の配管の内面を洗浄して樹脂で被覆し延命する工事で、更新工事とは配管そのものを架橋ポリエチレン管などの新しい管に取り替える工事である。赤水・漏水が出た築古の宿では、配管の材質と劣化度、壁・天井を開ける範囲、営業を止める期間で選ぶ。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
買収前に、配管の材質(鋼管・鋳鉄管など)と更新歴、漏水の補修記録、水道料金の不自然な増加を確かめる。床下や天井内の配管は目視できない部分が多く、内視鏡調査や抜管調査の結果があるか確認する。温泉配管は成分によりスケールや腐食が早く進むため、給排水と分けて状態と更新費を見積もる。
- 087アスベスト(石綿)事前調査アスベスト(石綿)事前調査義務(2023年10月からの有資格者調査義務化と除去・封じ込め費用)
アスベスト(石綿)事前調査とは、建築物の解体・改修の前に、工事対象の建材に石綿が含まれるかを書面と現地で調べる義務である。2022年4月から一定規模以上の工事は調査結果の報告が必要となり、2023年10月1日着工分からは建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による調査が義務となった。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
調査は工事の規模にかかわらず原則必要で、結果を報告する基準(建築物の解体80㎡以上など)とは別である。買収前に、過去の調査報告と分析結果、吹付け材・保温材・成形板の位置、未調査の部位を確かめる。除去・封じ込め・囲い込みの費用は材料の種類と数量で大きく変わるため、一式の概算でなく部位別の見積りで価格に反映する。
- 088PCB含有機器(安定器・変圧器)の確認PCB(ポリ塩化ビフェニル)含有安定器・変圧器の有無確認
PCB含有機器の確認とは、古い照明器具の安定器、変圧器・コンデンサなどにポリ塩化ビフェニル(PCB)が含まれるかを調べることである。高濃度PCB廃棄物の処分期間は地域ごとにすでに終了しており、低濃度PCB廃棄物は2027年3月31日までに処分しなければならない。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得前に、受変電設備の銘板(製造年・メーカー)と照明安定器の型式を確認し、PCB廃棄物の保管・届出の記録があるかを確かめる。使用中の機器も処分の対象になりうるため、判定は製造者の情報や分析で行う。見つかった場合の分析費・処分費と保管の責任を売主と買主のどちらが負うか、売買契約で明確にする。
- 089トレーラーハウス・グランピングドーム活用トレーラーハウス・グランピングドーム活用(車両として扱われる条件と建築物に当たる場合の違い、市街化調整区域・遊休駐車場の収益化)
トレーラーハウス活用とは、車輪付きの移動できる客室を設置して宿泊に使う手法で、随時かつ任意に移動できる状態が保たれていれば車両として扱われうる。固定的な基礎や着脱できない配管の接続があると建築物と判断されうる。グランピングドームも設置の方法により建築物に当たるかが変わる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
建築物に当たるかは特定行政庁の判断で、市街化調整区域は建築・開発の制限が厳しいため、設置前に配置図と接続方法を示して自治体に確かめる。宿泊料を受けるなら旅館業の許可が要り、消防・排水の相談も別に必要。既存施設を買う場合は、行政との協議記録、公道に出られる搬出経路、デッキ等の後付けを確認する。
- 090企業保養所・研修所コンバージョン企業保養所・研修所コンバージョン(寄宿舎・保養所から旅館・ホテル・合宿施設への用途転換)
企業保養所・研修所コンバージョンとは、企業が福利厚生や研修に使ってきた保養所・研修所・寄宿舎を、旅館・ホテルや合宿施設として不特定の利用者を泊める宿泊施設へ転用することである。建築基準法の用途、旅館業の許可、消防法上の用途区分がそれぞれ変わるかを個別に確かめる必要がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
用途変更の確認申請は、特殊建築物への変更でその用途の床面積が200㎡を超えるときに要り、政令で定める類似の用途相互間なら不要となる。検査済証の有無、旅館業の構造設備基準、自動火災報知設備など消防用設備の追加、浄化槽の処理能力を確かめる。法人が売主の場合は社内決裁の時期も工程に入れる。
CATEGORY 07 — 10語
運営体制・契約モデル・資金調達
- 091直営方式・所有運営分離方式直営方式・所有運営分離方式(所有と経営・運営の分離)
直営方式とは、建物の所有者が自ら宿泊事業の営業者となり運営まで担う形で、所有運営分離方式とは、所有者と運営者を分け、賃貸借(リース)や運営委託(MC)などの契約で運営を任せる形である。どちらを取るかで、旅館業の営業者、損益の帰属、更新投資の負担者が変わる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
買収時は、現在の営業者が誰か(所有会社か運営会社か)を許可証で確かめ、承継手続の対象を誤らない。分離型では、運営契約の残存期間、中途解約の条件と違約金、所有者交代時の扱い(CoC条項)、FF&E・修繕の負担区分を読む。直営から分離へ移す場合は、従業員の転籍と予約・OTAアカウントの名義も整理する。
- 092MC方式(運営委託契約)MC方式(Management Contract/運営委託契約:オーナーが事業主となりオペレーターへ運営を委託する形態)
MC方式(運営委託契約)とは、施設の所有者などが事業主として宿泊事業の損益を負い、運営会社(オペレーター)に運営業務を委託して報酬を支払う形態である。報酬は売上に連動する基本報酬と、GOPなど利益に連動するインセンティブ報酬を組み合わせることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得時は、契約期間と更新、業績基準を満たさない場合の解約条項、所有者変更時の扱い、報酬の計算式(基本・インセンティブの基準額)を確認する。旅館業の許可名義が誰かで承継手続が変わる。従業員の雇用主が所有者側か運営会社か、運営口座と予約データの管理者、FF&Eリザーブの積立方法も確かめる。
- 093マスターリース方式(一括賃貸借)マスターリース方式(一括賃貸借契約:固定賃料型・変動賃料型・ハイブリッド型)
マスターリース方式とは、所有者が宿泊施設を運営会社に一括で賃貸し、運営会社が自ら営業者として事業を行い所有者へ賃料を払う形態である。賃料には固定型、売上やGOPに連動する変動型、最低保証に変動分を上乗せするハイブリッド型があり、収益の振れを誰が負うかが変わる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
建物の賃貸借は借地借家法の適用を受けるため、普通借家か定期借家か、更新や賃料改定の条件を契約書で確かめる。取得時は、賃料の実績と滞納、敷金・保証金の承継、修繕・FF&E更新の負担区分、原状回復の範囲を確認する。変動賃料の基になる売上・GOPの報告義務と、所有者の監査権の有無も見る。
- 094フランチャイズ方式(FC契約)フランチャイズ方式(FC契約:ブランド・予約システム・ノウハウのライセンス供与)
フランチャイズ方式とは、ホテルチェーンなどの本部が、ブランド名、予約システム、運営ノウハウの使用を加盟者に許諾し、加盟者が自ら事業を運営して加盟料・ロイヤルティなどを支払う契約形態である。運営の主体と損益は加盟者側にあり、運営を委ねるMC方式とは異なる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得時は、FC契約の残存期間、所有者・経営者の変更に本部の承認が要るか、中途解約や脱退時の違約金、ブランド基準に合わせる改装の義務を確かめる。予約システムや会員プログラム経由の売上比率を把握し、脱退した場合の送客の減少も試算する。ロイヤルティ等の料率と計算の基礎も確認する。
- 095生活衛生貸付(日本政策金融公庫)日本政策金融公庫「生活衛生貸付(一般貸付・振興事業貸付)」
生活衛生貸付とは、日本政策金融公庫が旅館業を含む生活衛生関係営業の事業者に行う融資で、一般貸付と振興事業貸付がある。振興事業貸付は、振興計画の認定を受けた生活衛生同業組合の組合員などが、計画に沿った設備資金・運転資金に使える制度である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
限度額・返済期間・利率は改定されることがあるため、公庫の最新の案内で確かめる。一般貸付は設備資金が中心で、金額によって推せん書が要る。振興事業貸付は組合の資金証明書等が必要になる。承継に伴う取得では、旅館業の承継の承認時期と融資の実行日、売買の決済日をそろえて工程を組む。
- 096協調融資とプロパー融資協調融資(日本政策金融公庫+地方銀行・信用金庫によるパッケージ融資)とプロパー融資
協調融資とは、日本政策金融公庫と地方銀行・信用金庫など複数の金融機関が同じ事業に分担して融資する形で、プロパー融資とは、信用保証協会の保証を付けずに金融機関が自らの判断とリスクで行う融資である。宿泊施設の取得・改修では、両者を組み合わせて必要額をそろえることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
複数の金融機関から借りる場合は、担保の順位、返済期間・据置期間の違い、資金の実行日がそろうかを確かめる。買収時は、売主の既存借入に期限の利益の喪失やCoC条項がないか、全額返済で抵当権を抹消できるかを確認する。融資の判断材料となる事業計画と改修の見積りは、各機関で同じ前提にそろえる。
- 097ノンリコースローン・メザニンローンノンリコースローン(非遡及型融資)とプロジェクトファイナンス・メザニンローン
ノンリコースローンとは、返済原資を対象の不動産や事業から生じる収益と担保の処分代金に限り、借り手の他の資産には遡及しない融資である。プロジェクトファイナンスは特定事業のキャッシュフローを返済原資とする手法、メザニンローンはシニアローンより返済順位が劣後し金利が高い資金をいう。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
ノンリコースでも、詐欺や環境汚染などの場合に責任が借り手やスポンサーに及ぶ例外条項が付くのが一般的で、その範囲を読む。DSCRやLTVが基準を下回った場合の資金の留保、期限前返済の手数料も確かめる。メザニンを使う場合は、シニアの貸し手との債権者間契約で回収の順序と権利を確認する。
- 098セール・アンド・リースバックセール・アンド・リースバック(不動産を売却して資金化し、そのまま賃借して旅館営業を継続する再生手法)
セール・アンド・リースバックとは、宿泊施設の土地・建物を投資家などに売却して資金を得たうえで、同じ施設を買主から賃借し、売主が旅館の営業を続ける手法である。借入の返済や改修資金の確保に使われるが、以後は賃料が固定費となり、所有による値上がり益や担保の余力は手放すことになる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
賃料が営業の実力(GOP)に見合うか、賃料の改定条件と契約期間、買戻しの選択権の有無を確かめる。売却価格と賃料の水準などによっては、税務・会計上は金融取引として扱われる可能性があるため、税理士・会計士に確認する。旅館業の営業者は売主のままか、許可の名義と消防・温泉の許可の関係も整理する。
- 099宿泊施設向け補助金観光庁・経産省・環境省の宿泊施設向け補助金(高付加価値化事業・省エネ補助金・交付決定前着手の禁止・精算払いのつなぎ資金)
宿泊施設向け補助金とは、観光庁の宿泊施設の高付加価値化に関する事業や、経済産業省・環境省の省エネ設備の導入支援など、宿の改修や設備更新の経費の一部を国の予算で補助する制度である。原則として交付決定前に発注・着手した経費は対象外で、実績報告の後に支払う精算払いが基本となる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
公募要領は年度ごとに変わるため、対象経費・補助率・上限は最新の要領で確かめる。精算払いのため工事代金を先に立て替える資金が要り、つなぎ融資の手当てを工程に入れる。取得する施設が過去に補助金を受けていれば、財産処分の制限期間内の売却に承認や返還が要るかを確認する。
- 100PMI(承継後の統合作業)承継後のPMI(Post Merger Integration:従業員面談・女将/板長引継ぎ・地元仕入れ業者・温泉組合への挨拶と100日プラン)
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後に、買主が取得した事業の組織・業務・取引関係を自社の経営に組み込む統合作業である。旅館では、従業員との面談、女将・料理長の引継ぎ、地元の仕入れ先や温泉組合への挨拶などを、100日ほどの計画で進めることが多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
クロージングの前から、雇用条件の引継ぎ方、中心となる人の残留条件、仕入れ口座・予約サイト・PMSの名義変更、許認可の届出期限を一覧にしておく。地元の慣行(温泉組合の会費や分湯の決まり、祭事への協力など)は書面にないことが多く、売主に同行してもらう挨拶の場で確かめる。
CATEGORY 08 — 20語
不動産鑑定評価・積算価格・価格算定手法
- 101積算価格(原価法)積算価格(原価法による試算価格:土地・建物の再調達原価を求め、減価修正(耐用年数に基づく方法と観察減価法の併用)を行って求める)
積算価格とは、不動産鑑定評価基準の原価法により求める試算価格で、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、これに減価修正を行って得る。土地建物一体の宿泊施設では、土地の価格と建物の再調達原価を求め、建物は耐用年数に基づく方法と観察減価法を併用して減価を見る。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
築古の旅館は、建物の減価が大きく積算価格が土地の価格に近づく一方、収益価格とかけ離れることがある。金融機関の担保評価は積算価格を重く見ることがあり、借入できる額が収益の実力と合わない前提で資金計画を組む。設備の更新歴と残存耐用年数の根拠、増築部分の扱いを鑑定書で確かめる。
- 102再調達原価と減価の要因再調達原価(同等の建物を現在新築した場合に必要な建築費)と経年減価・機能的減価・経済的減価
再調達原価とは、価格時点において対象不動産を再調達することを想定した場合に必要とされる適正な原価の総額である。減価修正では、老朽化や損耗による物理的要因、設計や設備の陳腐化による機能的要因、周辺の環境や市場の変化による経済的要因から減価額を求める。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旅館は大浴場・厨房・宴会場など特殊な設備が多く、再調達原価が高く出やすい。一方で使われない大広間や部屋食前提の動線などは機能的な減価として大きく差し引かれることがある。鑑定書では、採用した建築単価の根拠、設備の区分、観察減価の内容を読み、改修計画の費用と二重に数えていないか確かめる。
- 103収益価格と積算価格の乖離収益価格(収益還元法による試算価格)と積算価格の乖離(地方温泉旅館で積算>収益、または築古再生で収益>積算となる構造と銀行融資への影響)
収益価格と積算価格の乖離とは、収益還元法で求めた収益価格と、原価法で求めた積算価格の差が大きく開く状態である。地方の温泉旅館では建物の規模に比べ収益が小さく積算価格が上回りやすく、築古を再生した宿では建物の減価が進んでいても収益が高く、収益価格が上回ることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
鑑定評価では試算価格の調整を経て鑑定評価額を決めるため、どちらを重く見たかの理由を鑑定書で読む。金融機関が担保評価で積算価格を重視すると、収益が高くても借入額が伸びないことがある。売主は価格の根拠を収益で示し、買主は改修後の収益見込みと担保評価の差を資金計画に入れる。
- 104直接還元法直接還元法(一期間の純収益NOIを還元利回りCap Rateで割る手法)
直接還元法とは、収益還元法のうち、一期間の純収益を還元利回りによって還元し収益価格を求める手法である。宿泊施設では、季節や一時的な要因を均した標準的な年間の純収益(NOI)を、類似施設の取引利回りなどを参考に求めた還元利回り(キャップレート)で割って価格を得る。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
純収益が直近の好調な年や不調な年の一年だけに偏っていないか、FF&Eの更新や大規模修繕の積立を差し引いているかを確かめる。還元利回りは少しの違いで価格が大きく動くため、採用の理由と比べた事例の性格(都市型か温泉地か)を読む。運営者の交代を前提にする買主は、運営報酬を差し引いた純収益で見直す。
- 105DCF法DCF法(Discounted Cash Flow法:連続する複数の期間の純収益と復帰価格を現在価値に割り引く手法)
DCF法とは、収益還元法のうち、連続する複数の期間に発生する純収益と、保有期間の終わりに見込む復帰価格を、それぞれの発生時期に応じて現在価値に割り引き、合計して収益価格を求める手法である。改修で収益が変わっていく途中の宿泊施設など、収益の推移を表しやすい。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
各年の売上・GOPの前提、改修費やFF&E更新の支出時期、復帰価格を求める最終還元利回りと売却費用を一つずつ確かめる。改修後の稼働・単価の上昇を早い年に置いていないか、過去の実績と比べる。割引率や最終還元利回り、保有期間の長さで結果が大きく動くため、感度分析の有無も見る。
- 106割引率と最終還元利回り割引率(Discount Rate)と最終還元利回り(Terminal Cap Rate/出口利回り)
割引率とは、DCF法で各期の純収益や復帰価格を現在価値に割り戻すときに使う率で、最終還元利回りとは、保有期間の満了時点の復帰価格を求めるため、その翌年の純収益を還元する利回りである。最終還元利回りは、建物の老朽化や将来の不確実性を加味して決める。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
割引率と最終還元利回りをどの事例や指標から求めたかを、鑑定書や事業計画で確かめる。売却時の築年数や大規模修繕の要否を考えずに、今の還元利回りをそのまま出口に使っていないか確認する。金利が変わると両方が動きうるため、買主は高めの出口利回りでも返済と売却ができるかを試算しておく。
- 107取引事例比較法取引事例比較法(ホテル・旅館において特殊性・個別性が強いため単独適用が難しい理由と補正方法)
取引事例比較法とは、多数の取引事例から適切な事例を選び、事情補正と時点修正を行い、地域要因と個別的要因を比べて求めた価格を比較考量し、比準価格を求める手法である。旅館・ホテルは規模・立地・設備・運営成績の個別性が強く、取引も少ないため、単独では使いにくい。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊施設の取引には事業の引継ぎや債務整理などの事情を含むものが多く、価格に営業権やFF&Eが入っているかも事例ごとに違う。一室当たりや床面積当たりの単価は条件をそろえた参考値にとどめ、収益価格や積算価格と照らし合わせる。売主の希望価格を近くの売出し価格だけで決めない。
- 108ホテル・旅館の価値の分離評価事業用不動産としての「ホテル・旅館」の特殊鑑定(不動産価値・動産FF&E価値・営業権/のれん価値の分離評価)
ホテル・旅館の価値の分離評価とは、宿泊施設の取引価格や事業の価値を、土地・建物の不動産、家具・什器・備品(FF&E)などの動産、運営の実績やブランドから生じる営業権(のれん)に分けて捉える考え方である。売買契約、税務、融資の担保評価で、それぞれの金額の根拠が問われる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
鑑定評価書の評価条件で、FF&Eや営業権を含めたか除いたかを確かめる。売買代金を不動産・動産・営業権にどう配分するかで、消費税や減価償却などの負担が変わるため、配分の根拠を税理士と整理する。リース資産や所有権留保の付いた備品は売主の所有物ではないため、対象から外して扱いを決める。
- 109土地建物の価格按分土地建物の価格按分(売買契約書における土地代金・建物代金・消費税額の合理的按分基準:固定資産税評価額比率・鑑定評価比率・帳簿価額比率)
土地建物の価格按分とは、土地と建物を一括で売買するとき、総額を土地代金と建物代金に分けることである。土地は消費税が非課税、建物は課税で、建物代金は買主の減価償却の基礎にもなるため、固定資産税評価額の比率や鑑定評価額の比率などの合理的な基準で分け、契約書に明記する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
契約書に内訳がないと、税務上の按分の根拠を後から説明しにくくなる。建物代金を大きくすると買主の償却費は増えるが、課税事業者である売主の消費税負担も増えるため、利害が対立しやすい。付帯設備やFF&Eを別に値付けするかも含め、按分の基準と根拠資料を決済前に双方の税理士と確認する。
- 110一物四価・五価一物四価・五価(実勢価格・公示地価/基準地価・相続税路線価・固定資産税評価額・鑑定評価額の定義と宿泊施設での見方)
一物四価・五価とは、同じ土地に実勢価格、公示地価・基準地価、相続税路線価、固定資産税評価額、鑑定評価額という目的の異なる複数の価格が併存することをいう。目安として、路線価は公示価格の8割程度、固定資産税評価額は7割程度の水準とされる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
温泉地や山間部の宿は取引事例が少なく、公的な価格と実際の売買価格が大きく離れることがある。固定資産税評価額は税や登記費用の計算の基礎にはなるが、売買価格の根拠にはならない。公示地価は1月1日、基準地価は7月1日時点など基準日と目的を分けて読み、収益力から求めた価格と並べて判断する。
- 111倍率地域(倍率方式)倍率地域(路線価が定められていない温泉地・山間部における固定資産税評価額×評価倍率による土地評価)
倍率地域とは、相続税路線価が定められていない地域のことで、相続税・贈与税の土地評価は、固定資産税評価額に国税庁の評価倍率表に定める倍率を掛ける倍率方式で行う。温泉地や山間部にある旅館の敷地は、この倍率地域に当たることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
倍率方式で出す評価額は相続や贈与の税額計算のための価格で、売買価格や金融機関の担保評価とは別物である。評価倍率表は年分・地域・地目ごとに異なるため、該当する年の表で確かめる。株式譲渡で法人ごと引き継ぐ場合や相続後の売却では、株価算定や税額にも影響しうるので税理士と確認する。
- 112鉱泉地の評価鉱泉地の評価(財産評価基本通達に基づく温泉湧出地・源泉地の評価方法:固定資産税評価額を基に湧出量の増減等を考慮。引湯管等の扱いは通達と税理士に確認)
鉱泉地の評価とは、温泉が湧き出る土地(登記の地目「鉱泉地」)を財産評価基本通達に沿って評価することである。原則として固定資産税評価額を基にし、湧出量の増減などの事情を考慮して求める。細かな算式や引湯管などの扱いは、通達の該当箇所と税理士の確認による。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
源泉の土地が旅館の敷地と離れていたり、地目が鉱泉地になっていなかったりすることがある。登記の地目と所有者、固定資産税の課税明細、温泉の採取・利用の許可、湧出量と温度の記録、引湯管の位置と権利をそろえる。税務上の評価額は売買価格の根拠にならないので、源泉の実際の状態とは別に見る。
- 113構築物・建物附属設備の評価構築物・附属設備の評価(露天風呂・庭園・石垣・看板・受変電設備・給排水衛生設備・ボイラー等の建物本体と区分した償却資産・不動産評価)
構築物・建物附属設備とは、建物本体と区分して扱う資産のことで、露天風呂・庭園・石垣・看板などの構築物と、受変電・給排水衛生・ボイラーなどの建物附属設備をいう。税務上は建物と別に耐用年数が定められ、固定資産税では家屋に含めるものと償却資産として申告するものがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
取得価額をどの資産に分けるかで、償却期間と税額が変わる。固定資産台帳、償却資産の申告書、工事の見積書・請求書をそろえ、家屋の評価に含まれる設備と償却資産の区分を確かめる。リース品や他人所有の設備が混じっていないか、引き渡す範囲を付帯設備表と照合し、評価の重複や漏れを防ぐ。
- 114更地価格と建付地価格更地価格と建付地価格(建付減価:既存建物があることによる土地利用制限の減価と、解体費控除の考え方)
更地価格とは、建物がなく使用収益を制約する権利も付いていない土地の価格であり、建付地価格とは、建物が建っている土地を、その建物と一体として評価した土地部分の価格である。建物が土地の最有効使用に合わないと建付地は更地より低くなり、この差を建付減価という。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
古い旅館の敷地は、建物を解体すれば高く売れるとは限らない。解体費・石綿除去費・残置物処分費と、更地にした後の利用の制限(市街化調整区域、自然公園、接道)を並べて比べる。既存不適格の建物は建て直すと同じ規模にできないことがあり、現況の建物を生かす方が価値を保てる場合もある。
- 115解体更地化控除解体更地化控除(最有効使用が建物解体・更地転換である場合に、更地価格から解体費・アスベスト除去費・源泉閉鎖費を控除する評価)
解体更地化控除とは、土地の最有効使用が建物を取り壊して更地として使うことである場合に、更地価格から建物の解体費や石綿除去費、残置物の処分費、源泉の閉鎖費などの費用を差し引いて土地の価格を求める考え方である。古い宿の評価や売り方の判断で論点になる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
解体費は構造・規模・石綿の有無・残置物の量・重機の進入路で大きく変わる。概算ではなく、現地を見た見積と石綿事前調査の結果を基にする。温泉の井戸を使わなくなる場合の扱いと費用は所管の窓口に確かめる。解体後に再建築できるか(接道・用途地域・自然公園)も先に調べる。
- 116借地権付建物借地権付建物(旧法借地権・普通借地権・定期借地権)における宿泊施設の鑑定評価と底地(貸宅地)の同時取得(底借一体)メリット
借地権付建物とは、建物の所有を目的として他人の土地を借りる権利(借地権)の上に建つ建物である。借地権には旧借地法による借地権、借地借家法の普通借地権、更新がなく期間満了で終わる定期借地権がある。鑑定では契約内容と残存期間を価格に反映する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
借地契約書、地代の改定経緯、更新料の定め、増改築や譲渡の承諾条件を確かめる。定期借地権は期間満了で原則として建物を収去して返すため、残存期間と返済期間の関係が融資を左右する。底地を同時に買う底借一体は権利がまとまり価値が上がりうるが、地主の意向次第で価格も別交渉になる。
- 117区分所有建物のホテル区分所有建物(リゾートマンション・コンドミニアム型ホテル・複合ビル内ホテル)の専有部分・共用部分評価と管理規約・修繕積立金DD
区分所有建物とは、一棟の建物を構造上・利用上独立した部分に分け、各部分を別々に所有できる建物である。リゾートマンションやコンドミニアム型ホテル、複合ビル内のホテルでは、専有部分の所有権と共用部分の共有持分、敷地利用権を一体のものとして評価する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
管理規約で宿泊営業や不特定の人の利用が制限されていないか、議事録で用途や大規模修繕の決議予定がないかを確かめる。修繕積立金の残高と長期修繕計画、滞納の有無、管理費の負担割合も見る。運営会社が他の区分所有者と賃貸借や運営委託を結んでいれば、その契約の承継も確認する。
- 118遊休地・寮の一体評価と切り売り遊休地・隣接駐車場・従業員寮の一体評価と切り売り(敷地分割・分筆売却による資金捻出)
遊休地・隣接駐車場・従業員寮の一体評価と切り売りとは、宿の本体と周辺の土地建物をまとめて評価するか、分筆して一部を別に売却し資金をつくるかを判断することである。一体で使うことで価値が出る土地もあれば、単独で売る方が高くなる土地もある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
切り売りすると、駐車台数や従業員の住まい、排水・引湯の経路など、宿の運営に欠かせない機能を失うことがある。分筆には境界の確定と測量が要り、残る敷地の接道や建蔽率・容積率が不足しないかを確かめる。担保がまとめて設定されていれば、一部の抹消に金融機関の同意も要る。
- 119土壌汚染リスク評価土壌汚染リスク評価(ボイラー重油タンクの地下漏洩・クリーニング溶剤・温泉成分の自然由来重金属とフェーズ1/フェーズ2調査)
土壌汚染リスク評価とは、敷地の土壌や地下水が有害物質で汚れている可能性を調べることで、土地の使用履歴を資料と聞き取りで確かめるフェーズ1と、試料を採って分析するフェーズ2に分けて行う。宿では重油タンクの漏れや洗濯の溶剤、自然由来の重金属等が論点になる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
土壌汚染対策法では、一定規模以上の土地の形質変更の届出などをきっかけに調査が求められることがある。地下タンクの位置・使用歴・漏洩事故の記録、過去の業種、クリーニング設備の有無を聞き取り、必要なら調査を契約の条件にする。費用の負担と表明保証の範囲も契約で決めておく。
- 120エンジニアリングレポート(ER)エンジニアリングレポート(ER/建物状況調査報告書:遵法性・構造耐力・PML予想最大損失率・短期/長期修繕更新費用一覧)
エンジニアリングレポート(ER)とは、専門の調査会社が建物の状態を調べてまとめる報告書で、遵法性、構造・耐震性、地震時の予想最大損失率(PML)、短期・長期の修繕更新費用、環境リスクなどを記載する。ファンドや金融機関が取得や融資を判断する際に使われる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
ERの多くは書類の確認と目視が中心で、壁の中の配管や温泉設備の内部までは分からないことがある。調査の範囲・前提条件・除外事項を先に読む。修繕更新費用は概算なので、ボイラー・受変電設備・源泉ポンプなど宿に特有の設備は専門業者の見積で補う。PMLの算定方法と前提も確かめる。
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温泉地・地方特有の土地権利・境界・登記実務
- 121公簿売買と実測売買公簿売買(登記簿面積による売買)と実測売買(確定測量後の実測面積による精算売買)の使い分け
公簿売買とは、登記簿に記載された面積で代金を決め、後で実測面積と違っても精算しない売買であり、実測売買とは、確定測量などで測った実際の面積を基に、登記面積との差を単価で精算する売買である。温泉地や山間部の宿では両者の差が大きいことがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
公簿売買でも、境界が分からないままでは越境や隣地との争いが残る。精算の有無と単価、測量の費用負担と期限、測量が間に合わない場合の扱いを契約に書く。山林や原野を含む広い敷地では実測に時間がかかるため、決済日と測量の完了を連動させるかを先に決める。
- 122確定測量と筆界確認書確定測量と筆界確認書(隣接土地所有者との立会い・官民境界査定・温泉街や山間部で測量が難航する理由と対策)
確定測量とは、隣接する土地の所有者や、道路・水路を管理する官公署の立会いを得て、すべての境界を確定させて行う測量であり、筆界確認書はその合意を書面にしたものである。隣地の所有者が多い温泉街や、官民境界の協議が多い山間部では時間がかかりやすい。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
相続で隣地の所有者が多数いる、所在が分からない、官民境界の協議に月単位でかかるなど、測量が決済に間に合わないことがある。合意できないときは不動産登記法の筆界特定制度があるが、これは筆界を特定する手続で、所有権の範囲を決めるものではない。期限と費用負担を契約で決める。
- 123縄延び・縄縮み縄延び・縄縮み(明治期の地租改正由来の公図・登記簿面積と現況実測面積の大幅なズレ)
縄延びとは、登記簿の面積より実際に測った面積が大きいことをいい、縄縮みはその逆である。明治期の地租改正の際の測量の精度や申告の事情に由来するとされ、山林・原野や古くからの温泉地では、登記面積と実測面積が大きくずれていることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
縄延びのある土地を公簿面積で売ると売主に、縄縮みでは買主に不利になる。実測で面積が変わると、建蔽率・容積率の計算や固定資産税、担保評価にも影響する。登記面積を直す地積更正登記には隣地との境界の確定が前提になるため、測量と登記を誰がいつまでに行うかを契約で決める。
- 124公図混乱地域・筆界未定地公図混乱地域・筆界未定地(地図混乱地域・字限図・国土調査未実施エリアにおける旅館敷地の特定と担保設定の注意点)
公図混乱地域とは、法務局に備わる地図や公図が現地の土地の位置・形と大きく食い違い、境界を図面から特定できない地域をいう。筆界未定地は、地籍調査で隣接者の確認が得られず境界が定まらなかった土地である。地籍調査が済んでいない地域では公図の精度が低いことがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
敷地のどこまでが売買の対象か特定できないと、金融機関が担保の設定に慎重になる。法務局の地図の種類(不動産登記法第14条の地図か、地図に準ずる図面か)、地籍調査の実施状況、筆界未定の有無を確かめ、必要なら隣接者との境界確認と地図の訂正を条件にする。費用と期間は大きくなりうる。
- 125赤道(里道)と青道(水路)赤道(あかみち/里道・法定外公共物)と青道(あおみち/水路)の敷地内混在(占用許可・用途廃止・払下げ手続)
赤道(里道)と青道(水路)とは、道路法や河川法の適用を受けない道や水路のことで、法定外公共物と呼ばれる。公図で赤や青に塗られていたことからの呼び名で、多くは国から市町村へ譲与されている。古い旅館では敷地の中を通っていたり、建物の下にあったりすることがある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
敷地内に赤道・青道があると、その部分は宿の所有地ではなく、建物や駐車場が上にあれば占用の許可や用途廃止・払下げ(売払い)の手続が要る。公図で位置を確かめ、管理者(多くは市町村)に現況と手続を照会する。払下げは時間と費用がかかり、決済までに終わらないこともあるので、扱いを契約で決める。
- 126未登記建物・未登記増築未登記建物・未登記増築部分(老舗旅館の離れ・増築宴会場・湯小屋等の表題登記・床面積の変更登記・保存登記と銀行融資の前提条件)
未登記建物とは、表題登記がされていない建物や、増築したのに床面積の変更登記がされていない部分をいう。老舗旅館の離れ・宴会場・湯小屋などに見られる。表題登記は新築等から1か月以内の申請義務があり、所有権の登記がないと第三者に所有権を対抗できない。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
未登記の部分があると担保に入らないため、金融機関が融資の条件として登記を求めることが多い。固定資産税の課税明細と登記簿を照らし、現況と合わない建物を洗い出す。登記には所有を示す書類が要り、建築基準法に違反する部分があれば是正が先になることもある。費用と負担者を決済前に決める。
- 127地目変更登記地目変更登記(宅地・鉱泉地・山林・原野・雑種地・保安林・農地)と現況主義
地目変更登記とは、土地の主な用途が変わったときに、登記簿の地目を現況に合わせる登記である。地目には宅地・鉱泉地・山林・原野・雑種地・保安林・田・畑などがあり、現況と利用目的で判断される(現況主義)。所有権の登記名義人は変更から1か月以内に申請する義務がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
登記地目が田・畑のままの土地は、現況が駐車場でも農地法の許可などがないと地目を変えられないことがある。保安林は森林法の制限がかかる。登記地目は固定資産税の課税地目とずれることもあるため、登記簿・課税明細・現況をそろえて確かめ、転用の手続が済んでいるかを見る。
- 128農地法の転用許可(第4条・第5条)農地法許可(第4条・第5条:旅館隣接の畑・田を駐車場やグランピング用地・露天風呂へ転用する際の農業委員会手続と農振除外)
農地法の転用許可とは、農地を農地以外の用途に変える際に要る許可で、自分の農地を転用する第4条と、転用目的で売買や賃貸をする第5条がある。許可権者は都道府県知事等で、申請は農業委員会を経由する。農用地区域内の農地は原則として転用できず、先に農振除外が要る。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
旅館の隣の田畑を駐車場やグランピング用地にする計画は、許可が下りる前提で価格を決めない。農地の区分(農用地区域内か、甲種・第1種などか)で許可の見込みは大きく違う。無許可で転用された土地は原状回復を求められることがあるので、現況と許可の記録を照らし、許可を条件にした契約を検討する。
- 129借地上の旅館売買と地主承諾借地上の旅館売買における地主承諾(借地権譲渡承諾書・建替承諾料・条件変更承諾料・融資に伴う地主の念書/承諾書)
借地上の旅館売買における地主承諾とは、借地権付きの旅館を売買するとき、借地権の譲渡や建替え、契約条件の変更について地主の承諾を得ることである。承諾料の支払いを伴うことが多く、地主が承諾しないときは借地借家法に裁判所が承諾に代わる許可を与える制度がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
株式譲渡でも、借地契約が賃借人の支配権の変更を解除事由としていることがあるので契約書を読む。金融機関は融資の条件として、抵当権実行時の譲渡承諾などを含む地主の承諾書を求めることが多い。承諾料は地域や事情で違うため、金額と負担者を早めに地主と協議する。
- 130国有林野・公有地の貸付と使用許可国有林野・公有地(財産区・市町村有地・官有地)の貸付・使用許可(国立公園内の秘湯旅館やスキー場隣接ホテルに見られる敷地利用権の承継)
国有林野・公有地の貸付・使用許可とは、国有林や財産区・市町村などが持つ土地を、契約や許可に基づいて旅館やホテルの敷地として使う仕組みである。国立公園内の山の宿やスキー場周辺のホテルに見られ、売買では土地の所有権でなくこの利用権を引き継げるかが要点になる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
貸付契約や使用許可は名義人に与えられたもので、事業譲渡や株主の変更で当然に引き継げるとは限らない。期間・更新条件・使用料・目的外利用の制限・原状回復の義務を確かめ、承継の手続と見込みを管理者に事前に照会する。国立公園内なら、公園事業の認可や行為許可も別に確認する。
- 131入会権(いりあいけん)入会権(いりあいけん)・財産区・温泉組合の総有/共有権利(地域共同体の慣習的権利と外部買主が参入する際の合意形成)
入会権とは、村落など地域の住民の集団が、慣習に基づいて山林や原野などを共同で使う権利である。民法は共有の性質を有するもの(第263条)と有しないもの(第294条)に分け、いずれも各地方の慣習に従うとする。温泉地では財産区や温泉組合が源泉や土地を管理していることもある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
入会権は登記できず、登記簿だけでは存在が分からない。外部の買主が入ると、源泉や山林の利用、組合への加入に構成員の合意が要ることがある。組合の規約・名簿・総会の議事録、財産区の条例や契約を確かめ、地元への説明と承認の手順を売主と決めてから進める。
- 132通行地役権・囲繞地通行権・引湯の地役権通行地役権・囲繞地通行権・導水/引湯地役権(他人の土地を通る私道アクセスや、源泉から宿まで他人の土地の下を通る温泉引湯管の権利保全)
通行地役権とは、自分の土地の便益のために他人の土地を通行する権利で、契約で設定し、登記すれば第三者に対抗できる。囲繞地通行権は、公道に通じていない土地のために民法第210条が認める通行の権利である。他人の土地に引湯管を通す場合も、地役権や賃貸借で権利を確保する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
長年の黙認で通っている私道や引湯管は、隣地の所有者が変わると使えなくなるおそれがある。登記簿の乙区、地役権設定契約、土地使用の覚書、配管の位置図を確かめ、権利が書面にない場合は決済前に地役権の設定や確認書の取得を検討する。使用料や更新の条件も引き継ぎの対象になる。
- 133水利権・河川占用許可・海岸の占用許可水利権・河川占用許可・海岸保全区域占用許可(渓流沿いの露天風呂・川床・桟橋・取水・排水に関わる公法上の権利承継)
水利権とは、河川の流水を取水などで継続して使う権利で、河川法第23条の流水の占用の許可などで得る。河川区域の土地に露天風呂や川床・橋をつくるときは第24条の土地の占用の許可、海岸保全区域では海岸法の占用の許可が要る。いずれも土地の所有権とは別の権利である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
許可は名義・目的・範囲・期間が決まっており、宿の売買で自動的に移るとは限らない。許可書と図面を現況と照合し、権利の譲渡に河川管理者等の承認が要るか、期間満了時の更新の見込み、撤去・原状回復の条件を確かめる。許可のない工作物があれば是正を求められることがある。
- 134土砂災害警戒区域・特別警戒区域急傾斜地崩壊危険区域・土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)・土砂災害警戒区域(イエローゾーン)における重要事項説明と建築構造規制
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)とは、土砂災害で建物が壊れ住民等に著しい危害が生じるおそれがある区域で、特定開発行為の許可と居室を有する建築物の構造規制がある。その周りの土砂災害警戒区域(イエローゾーン)を含め、いずれも重要事項説明の対象である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
山腹や渓谷沿いの旅館では、建替えや増築の際に構造規制で費用が増えることがある。都道府県の指定図に加え、急傾斜地法による急傾斜地崩壊危険区域(一定の行為に許可が要る)の指定も確かめる。宿泊客の避難誘導の計画、保険料や融資条件への影響も見る。
- 135源泉地と旅館敷地の分離温泉掘削敷地と旅館敷地の分離(離れた場所にある源泉井戸の土地所有権・地上権・賃借権・ポンプ小屋の権利確保)
源泉地と旅館敷地の分離とは、温泉を採る源泉井戸やポンプ小屋の土地が旅館の敷地と離れ、別の筆・別の所有者になっている状態である。源泉の土地を所有権・地上権・賃借権のどれで使っているかで、売買の後も湯を使い続けられるかが変わる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
源泉地の登記(地目・所有者・地上権や賃借権の登記の有無)、賃貸借契約の期間と更新・譲渡承諾の条項、引湯管が通る他人の土地の使用権を確かめる。温泉の採取・利用の許可が誰の名義かも照合し、源泉地だけが売買の対象から漏れないよう物件目録に入れる。
- 136越境物の覚書越境物(屋根・庇・擁壁・給排水管・温泉配管・樹木)の覚書(将来の建替え・改修時に撤去・解消する旨の合意書)
越境物の覚書とは、屋根・庇・擁壁・給排水管・温泉配管・樹木などが隣地との境界を越えている状態を隣地の所有者と確認し、将来の建替えや改修の時に撤去・解消することなどを取り決めた書面である。所有権の範囲を決めるものではなく、当事者間の合意である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
確定測量の際に越境の有無と位置を図面で特定し、覚書の当事者・対象物・解消の時期と費用負担を確かめる。覚書を新しい所有者に引き継ぐ条項があるか、隣地の所有者が変わった場合の扱いも見る。温泉配管や排水管が隣地を通る場合は、覚書だけでなく地役権の設定と登記も検討する。
- 137がけ条例と擁壁の安全確認擁壁・崖条例(がけ条例)・工作物の安全性確認(山腹・渓谷・海沿いに建つ旅館の石積み擁壁・地下構造の調査)
がけ条例とは、建築基準法第40条に基づき自治体が定める条例で、一定の高さや勾配を超えるがけの近くに建築する場合に、擁壁の設置や建物とがけの距離の確保などを求めるものである。基準は自治体ごとに異なり、山腹・渓谷・海沿いの旅館で問題になりやすい。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
敷地や隣地のがけの高さ・勾配と、擁壁の築造時期・構造(石積み・ブロック積み・鉄筋コンクリート)・確認と検査の記録を確かめる。古い石積み擁壁は今の基準に合わないことが多く、増改築や建替えで造り直しを求められる場合がある。はらみ・亀裂・水抜き穴の詰まりも現地で見て、土砂災害警戒区域等の指定も照合する。
- 138私道負担と掘削承諾書私道負担と掘削承諾(前面道路が私道である場合の通行・上下水道・ガス・温泉管引き込み掘削承諾書)
私道負担とは、前面道路などが私人の所有する道路(私道)で、売買する土地の一部が私道に含まれる、または他人の私道を通行・利用する必要がある状態をいう。掘削承諾書は、上下水道・ガス・温泉管の引込みや修繕のため、私道の所有者が掘削を承諾する書面である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
前面道路が建築基準法上の道路(位置指定道路など)かと、私道の所有者・持分、通行と掘削の承諾の有無を確かめる。2023年4月施行の改正民法で他人の土地に導管などを設ける権利の規定ができたが、事前の通知などの手続が要るため、実務では承諾書を取っておく例が多い。承諾が買主に引き継がれる文言かも見る。
- 139温泉権の公示方法温泉権の公示方法(鉱泉地の所有権移転登記・地上権/賃借権設定登記と、慣習法上の湯口権・配湯組合名簿書換)
温泉権の公示方法とは、源泉を利用する権利が誰にあるかを第三者に示す方法である。源泉地を地目「鉱泉地」として所有権移転登記をする方法や地上権・賃借権の設定登記のほか、登記できない慣習法上の湯口権では、立札などの明認方法や温泉組合の名簿の書換えによる例がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
源泉地の登記簿で所有者と乙区の権利を確かめ、登記のない湯口権・分湯権は、組合の規約・名簿・分湯契約書・過去の譲渡書類で権利の流れを追う。名簿の書換えに組合の承認や加入金が要る場合があるので、決済前に組合へ手続を確かめる。湯口権の扱いには争いがありうるため、法的な評価は弁護士に確認する。
- 140不動産登記簿(全部事項証明書)不動産登記簿(全部事項証明書)の読み方(表題部・甲区:所有権/差押/仮差押/買戻特約・乙区:抵当権/根抵当権/地上権/賃借権)
不動産登記簿の全部事項証明書とは、法務局が登記記録の全部を証明して交付する書面である。表題部に土地・建物の所在・地目や構造・床面積、権利部の甲区に所有権と差押え・仮差押え・買戻特約など、乙区に抵当権・根抵当権・地上権・賃借権など所有権以外の権利が記録される。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
甲区で今の所有者と、差押え・仮差押え・仮登記・買戻特約の有無を、乙区で抵当権の債権額や根抵当権の極度額・債権者を確かめる。共同担保目録も取り、源泉地や駐車場が同じ担保に入っていないかを見る。未登記の増築や表題部と現況の食い違いは、決済前に整理の方法と費用負担を決める。
CATEGORY 10 — 20語
宿泊不動産の売買契約・重要事項説明・担保・税務実務
- 141重要事項説明書(35条書面)重要事項説明書(宅地建物取引業法第35条書面:宿泊施設売買において特に重説で網羅すべき法令制限・インフラ・温泉・遵法性事項)
重要事項説明書とは、宅地建物取引業法第35条に基づき、宅地建物取引業者が売買などの契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士に説明させて交付する書面である。登記された権利、法令上の制限、道路・上下水道などのインフラ、代金以外の金銭などを記載する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊施設では、旅館業の許可、温泉の採取・利用の許可、消防の適合状況、浄化槽、源泉地の権利、土砂災害の区域など、法定の記載事項だけでは足りない点を特記事項で補えているかを確かめる。株式譲渡は宅地建物の売買に当たらず重説の対象外なので、同じ確認をDDと契約書で行う。
- 142契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任:築古旅館・ホテルの売買における雨漏り・シロアリ・給排水管・構造・設備故障の免責特約と現状有姿売買の有効性)
契約不適合責任とは、引き渡した目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に売主が負う責任である。2020年4月1日施行の改正民法で瑕疵担保責任に代わり、買主は追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除ができる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
築古旅館では雨漏り・シロアリ・給排水管・構造・ボイラーや源泉ポンプの故障を想定し、免責の範囲と期間を特約で具体的に書く。「現状有姿」と書くだけで責任が免れるとは限らず、売主が知りながら告げなかった事実は免責特約があっても責任を免れない(民法第572条)。宅建業者が売主のときは宅建業法第40条の制限もある。
- 143付帯設備表・物件状況確認書付帯設備表・物件状況確認書(告知書:ボイラー・空調・厨房機器・エレベーター・消防設備・温泉ポンプ等の稼働状況と引渡し範囲の明確化)
付帯設備表とは、売買で引き渡す設備の有無・稼働状況・故障の有無を売主が一覧にした書面であり、物件状況確認書(告知書)は、雨漏り・シロアリ・境界・近隣との取決めなど、売主が知っている物件の状況を買主に告げる書面である。どちらも契約書に添付して使う。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
宿泊施設ではボイラー・空調・厨房機器・エレベーター・消防設備・温泉ポンプ・自動精算機などを一つずつ載せ、所有かリースか、引き渡すか撤去するかを分けて書く。売主が知りながら告げなかった事実は免責特約があっても責任を免れないので、売主は把握している不具合を記載し、買主は現地と保守記録で照合する。
- 144手付金(解約手付・違約手付)手付金(解約手付・証約手付・違約手付)と中間金・残代金決済(エスクロー・司法書士立会い・同時履行)
手付金とは、売買契約の締結時に買主が売主に渡す金銭で、契約成立の証拠となる証約手付、解除権を残す解約手付、違約の際に没収される違約手付の性質がある。民法第557条では解約手付と推定され、相手方が履行に着手するまで、買主は放棄、売主は倍額を現実に提供して解除できる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
手付の性質と額、解除できる期限、違約金の定めを契約書で確かめる。宅建業者が売主のときは代金の2割を超える手付を受け取れない(宅建業法第39条)。中間金や残代金の決済では、所有権移転登記と抵当権抹消の書類の受渡しと代金の支払いを同時に行い、司法書士が書類と本人を確認する段取りを決めておく。
- 145融資利用の特約(ローン特約)融資利用の特約(ローン特約:買主の金融機関融資が否決された場合の白紙解約条項と、事業用不動産売買における相対交渉での取扱い)
融資利用の特約とは、買主が予定した金融機関の融資の全部または一部が否決された場合に、売買契約を解除できる、または当然に効力を失うと定める特約である。白紙解約になれば手付金などは買主に返される。法律で義務付けられたものではなく、当事者の合意で定める。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
事業用の宿泊施設は審査が長く条件付きの承認も多いので、融資先・金額・承認の期限・「否決」の定義・買主の申込み義務を具体的に書く。期限を過ぎた場合や一部だけ承認された場合の扱いが曖昧だと争いになりやすい。売主は、特約を付けない代わりに手付や価格で調整するか、事前審査の結果を求めるかを交渉する。
- 146許認可承継を条件とする特約許認可承継を停止条件・解除条件とする特約(旅館業承継承認・温泉利用許可・消防適合の確認と不動産決済日の連動条項)
許認可承継を条件とする特約とは、旅館業の営業者の地位の承継の承認、温泉利用許可、消防法令への適合などの確認を、売買や事業譲渡の効力の発生や決済の条件とする特約である。条件がかなうと効力が生じる停止条件と、かなうと効力を失う解除条件の形がある。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
事業譲渡による旅館業の承継の承認は譲渡の前に申請が要るので、申請・審査・承認の日程と決済日を結び付けて書く。承認が得られない場合の解除・手付の返還・費用負担、期限の延長の手順も定める。温泉利用許可の承継の可否と手続は温泉法と都道府県の運用で確かめ、不動産だけの売買では許可が当然には移らない点に注意する。
- 147抵当権・根抵当権の抹消抵当権・根抵当権の抹消(極度額・被担保債権の範囲・元本確定請求・複数債権者/保証協会/サービサーとの抹消同意交渉)
抵当権・根抵当権の抹消とは、売買の決済時に、借入金の返済や債権者の同意によって、物件に設定された担保権の登記を消すことである。根抵当権は極度額の範囲で不特定の債権を担保するため、元本の確定や被担保債権の範囲を確かめたうえで抹消の手続をとる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
登記簿と共同担保目録で債権者・債権額・極度額を確かめ、売却代金で全額を返せない場合は、各債権者・保証協会・サービサーとの抹消同意の金額と配分を決済前に書面で固める。後順位の担保権者や差押えがあれば、その全員の同意が要る。決済当日に抹消書類がそろう段取りを司法書士と確認する。
- 148担保評価と掛目担保評価(銀行の不動産担保掛目:土地評価×70%前後・建物評価、および収益還元評価と事業性評価融資の組み合わせ)
担保評価とは、金融機関が融資の可否と金額を判断するため、担保とする不動産の価値を見積もることである。土地・建物の評価額に、処分時の下落などを見込んだ掛目を掛けて担保の額を出す。掛目は金融機関ごとに異なり一律ではなく、収益力で返済を見る事業性評価と組み合わせることも多い。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
築古の宿泊施設は建物の評価が低く出やすく、担保の額だけでは取得資金に届かないことがある。GOPや返済後のキャッシュフロー、改修計画、運営者の実績を示し、担保と事業性の両面で説明する資料を用意する。未登記の建物や違反建築があると担保に取れない場合があるので、先に整理する。
- 149工場抵当法(工場抵当・工場財団)工場抵当法(狭義の工場抵当・工場財団抵当:工場に属する土地建物と機械器具などを一体として担保権の目的とする制度。ホテル・旅館で使えるかは個別に確認)
工場抵当法とは、工場に属する土地・建物に設定した抵当権の効力を備え付けの機械器具などに及ぼす狭義の工場抵当と、土地・建物・機械器具などで工場財団を組成し、一つの不動産とみなして抵当権を設定する工場財団抵当を定めた法律である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
同法の「工場」は物品の製造・加工、印刷・撮影、電気・ガスの供給などの営業に使う場所とされ、ホテル・旅館が当たるかは個別の判断で、一般的な担保の方法ではない。宿泊施設で使えるかは登記所と金融機関に確かめる。既存の登記に工場抵当の目録や工場財団があれば、什器・設備も担保に入っていないかを確認する。
- 150リース資産・割賦残債の整理リース資産・割賦残債の調査と処理(空調・ボイラー・自動精算機・厨房機器・福祉車両等に付着した所有権留保・リース契約の承継または一括精算)
リース資産・割賦残債の整理とは、空調・ボイラー・自動精算機・厨房機器・送迎車などのうち、リース会社の物や、代金の完済まで売主側が所有権を持つ所有権留保の物を洗い出し、売買の際に契約を引き継ぐか一括で精算するかを決めることである。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
リース契約書と割賦契約書を集め、物件名・残債・残期間・中途解約の違約金・承継にリース会社の承諾が要るかを一覧にする。株式譲渡ではチェンジオブコントロール条項、事業譲渡や不動産売買では契約上の地位の移転の手続を確かめる。付帯設備表に所有かリースかを書き分け、引渡し後の引揚げを防ぐ。
- 151公租公課の日割精算公租公課(固定資産税・都市計画税・入湯税・事業所税)の起算日と日割精算実務
公租公課の日割精算とは、固定資産税・都市計画税など物件にかかる税を、その年の所有期間に応じて売主と買主が日割りで負担し合うことである。固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者であり、日割りの精算は法律上の義務ではなく契約上の合意である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
起算日を1月1日とするか4月1日とするかは商慣行・地域慣行で異なるので、契約書に明記する。精算金は税務上は売買代金の一部として扱われるのが一般的で、建物分の消費税の扱いも含めて税理士に確かめる。償却資産や事業所税、入湯税の預り分は日割りとは別に、どちらが申告・納付するかを決める。
- 152入湯税入湯税(地方税法に基づく目的税:鉱泉浴場における入湯客1人1日あたり標準150円の特別徴収義務と滞納の有無確認)
入湯税とは、地方税法第701条以下に定める市町村の目的税で、鉱泉浴場の入湯客に課される税である。税率は入湯客1人1日150円を標準として市町村が条例で定め、旅館などの鉱泉浴場の経営者が特別徴収義務者として入湯客から預かり、申告・納入する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
所在地の条例で税率、日帰り客と宿泊客の扱い、課税免除や減免の対象を確かめ、過去の申告書と納入の記録で滞納や申告漏れがないかを見る。株式譲渡では会社の未納がそのまま残るので表明保証や補償で手当てする。事業譲渡・不動産売買では、引渡し日をまたぐ預り分の申告・納入をどちらが行うかを決める。
- 153不動産取得税不動産取得税(土地・建物の課税標準額×税率、および住宅用と非住宅用=ホテル・旅館用の税率4%の違い)
不動産取得税とは、土地や建物を売買・贈与・新築などで取得した者に都道府県が課す税である。課税標準は原則として固定資産税評価額で、標準税率は4%。土地と住宅は特例で3%、宅地評価土地は課税標準を2分の1とする特例があり(期限あり)、ホテル・旅館の建物は4%である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
事業譲渡・不動産売買では買主に課され、取得の後に納税通知が届くので資金計画に入れる。特例の適用期限は都道府県の案内で確かめる。株式譲渡では会社の不動産の所有者は変わらないので課税されない。会社分割は一定の要件で非課税となる場合があるが、要件の判定は税理士に確認する。
- 154登録免許税と印紙税登録免許税(所有権移転登記・抵当権設定登記の税率と軽減措置の有無)および印紙税(不動産売買契約書・事業譲渡契約書の印紙税額)
登録免許税とは、登記をする際に国に納める税で、売買による所有権移転は土地・建物とも本則2%(土地は軽減措置あり)、抵当権設定は債権金額の0.4%である。印紙税は、不動産売買契約書や事業譲渡契約書などの第1号文書に、記載金額に応じて課される税である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
土地の軽減税率と売買契約書の印紙税の軽減措置は適用期限があるので、国税庁の税額表で確かめる。所有権移転の課税標準は固定資産税評価額が基になる。株式譲渡契約書は一般に印紙税の課税文書に当たらず、所有権移転登記も生じないので、スキームの比較では手取りと合わせて登記と印紙の費用も比べる。
- 155償却資産税(固定資産税の償却資産)償却資産税(固定資産税のうち、建物と区分される外構・看板・厨房機器・客室家具・温泉設備等の事業用資産に対する1.4%課税と償却資産申告台帳の確認)
償却資産税とは、固定資産税のうち土地・建物以外の事業用の償却資産に課される部分の通称である。外構・看板・厨房機器・客室家具・温泉設備などが対象で、標準税率は1.4%。課税標準額150万円未満は課税しない免税点があり、毎年1月1日時点の資産を1月31日までに申告する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
償却資産の申告書と固定資産台帳を突き合わせ、申告漏れや除却済みの資産が残っていないかを確かめる。建物の附属設備を家屋として評価するか償却資産とするかは市町村の判断で、二重の課税や漏れが起きやすい。株式譲渡では未申告分をさかのぼって課される負担が会社に残るので、表明保証で手当てする。
- 156建物の消費税とインボイス制度建物に係る消費税とインボイス制度(課税事業者・免税事業者の確認、建物代金の消費税と仕入税額控除・還付の注意点。リバースチャージは国内の建物売買には通常関係しない)
建物の消費税とは、事業者が行う建物の譲渡に課される消費税で、土地の譲渡は非課税である。売主が課税事業者なら建物代金に消費税がかかり、買主はインボイス(適格請求書)などの保存を条件に仕入税額控除ができる。土地と建物の代金の按分が税額に直結する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
売主が課税事業者か、適格請求書発行事業者の登録番号があるかを確かめ、按分は固定資産税評価額の比率など合理的な基準を契約書に書く。消費税の還付を前提とした計画は制度改正で制限されてきた経緯があり、事業用の宿泊施設では扱いが異なるので税理士に必ず確認する。リバースチャージは国外事業者の役務提供などが対象で、国内の建物売買には通常関係しない。
- 157事業用資産の買換え特例事業用資産の買換え特例(租税特別措置法:長期所有の土地建物を譲渡し、新たな事業用資産を取得した場合の譲渡益課税繰延べ制度)
事業用資産の買換え特例とは、租税特別措置法第37条に基づき、事業用の土地・建物などを譲渡して一定の期間内に新たな事業用資産を取得した場合に、譲渡益の一部について課税を将来に繰り延べる制度である。繰り延べる割合は原則80%で、地域などにより異なる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
所有期間10年超の土地建物等からの買換えなど、使える類型・取得の期限・買換資産の面積の制限・届出の要否を国税庁の案内で確かめる。適用期限の延長や要件の改正があるので、売却の時期を決める前に税理士に確認する。繰り延べた分は買換資産の取得価額を引き下げる形で、将来の売却時に課税される。
- 158心理的瑕疵・環境的瑕疵心理的瑕疵・環境的瑕疵(宿泊施設内での過去の自然死・事故・火災履歴等の調査と告知基準)
心理的瑕疵とは、過去の自殺・他殺・事故死・火災など、物件の物理的な欠陥ではないが、買主や利用者が心理的に嫌う事情をいう。環境的瑕疵は、周辺の嫌悪施設・騒音・臭気など物件の外の環境に関わる事情である。いずれも契約不適合や告知の範囲が問題になる。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
国土交通省の人の死の告知に関するガイドライン(2021年10月)は居住用不動産が対象で、宿泊施設にはそのまま当てはまらない。客室での事故や火災の履歴、報道の有無、口コミへの影響を売主に確かめ、告知の範囲は事案ごとに慎重に判断して物件状況確認書に残す。
- 159媒介契約の3形態とFA契約媒介契約の3形態(専属専任媒介契約・専任媒介契約・一般媒介契約)と非公開M&Aアドバイザリー契約(FA契約)の違い
媒介契約の3形態とは、宅地建物取引業法第34条の2に基づく専属専任媒介・専任媒介・一般媒介の3つをいう。専属専任は自分で見つけた相手との取引も不可、専任は他の業者への重ねての依頼が不可、一般は複数の業者に依頼できる。M&AのFA契約はこれとは別の契約である。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
専任・専属専任は有効期間3か月以内で、業務報告は専属専任が1週間に1回以上・専任が2週間に1回以上、レインズへの登録は専属専任が5日以内・専任が7日以内(休業日を除く)。株式譲渡は宅建業の対象外で、FA・仲介契約の報酬体系や利益相反は中小M&Aガイドラインに沿って確かめる。
- 160段階的クロージングと引渡し段階的クロージングと引渡し実務(鍵・図面・検査済証・営業許可証原本・温泉分析書・保守契約書・宿泊予約台帳の引継ぎチェックリスト)
段階的クロージングと引渡しとは、契約から決済・引渡しまでを、前提条件の確認、代金の決済と登記、鍵や書類・運営の引継ぎといった段階に分け、それぞれで渡す物と確かめる事項を一覧にして進める実務である。決済日で終わらせず、引継ぎの期間も含めて管理する。
宿泊M&A・再生の実務上の注意点
鍵とマスターキー、設計図・竣工図、確認済証・検査済証、旅館業の許可書類と承継の承認通知、温泉の分析書と許可書、消防・設備の保守契約書、宿泊予約台帳とOTA・PMSのアカウントを一覧にし、受渡しの日と担当者・受領の署名を残す。前受金と予約の精算方法も同じ表で決める。
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INDEX
五十音・アルファベット順の索引
あ行
か行
- 会社分割(吸収分割・新設分割)
- 解体更地化控除
- 確定測量と筆界確認書
- 株式譲渡(シェアディール)
- がけ条例と擁壁の安全確認
- 合併・分割・相続による旅館業の地位承継
- 企業保養所・研修所コンバージョン
- 既存不適格建築物と違反建築物
- 客室露天風呂・プライベートサウナ増設
- キャップレート(還元利回り)
- 給排水管の更生・更新工事
- 協調融資とプロパー融資
- 許認可承継を条件とする特約
- 区分所有建物のホテル
- クロージング条件(CP)
- 景観法と景観条例
- 契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)
- 検査済証とガイドライン調査
- 源泉かけ流しと循環ろ過式
- 源泉権(温泉権)
- 源泉地と旅館敷地の分離
- 公衆浴場法(一般公衆浴場・その他の公衆浴場)
- 工場抵当法(工場抵当・工場財団)
- 公図混乱地域・筆界未定地
- 鉱泉地の評価
- 公租公課の日割精算
- 構築物・建物附属設備の評価
- 公簿売買と実測売買
- 国民保養温泉地と温泉保護地域
- 国有林野・公有地の貸付と使用許可
さ行
- 再調達原価と減価の要因
- サウナ・プール・遊興施設の追加規制
- 更地価格と建付地価格
- 自然公園法の行為規制
- 私道負担と掘削承諾書
- 借地権付建物
- 借地上の旅館売買と地主承諾
- 収益価格と積算価格の乖離
- 周知の埋蔵文化財包蔵地
- 宿泊施設向け補助金
- 償却資産税(固定資産税の償却資産)
- 消防法令適合通知書
- 消防用設備等の設置基準
- 食品衛生法(飲食店営業許可・HACCP)
- 心理的瑕疵・環境的瑕疵
- 森林法と河川法・海岸法・砂防法
- 自家源泉と集中管理
- 事業譲渡
- 事業用資産の買換え特例
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)
- 重要事項説明書(35条書面)
- 受変電設備(キュービクル)とBCP対策
- 浄化槽法・水質汚濁防止法
- 水利権・河川占用許可・海岸の占用許可
- スケール(温泉沈殿物)と配管洗浄
- スマートロック・セルフチェックイン機
- 生活衛生貸付(日本政策金融公庫)
- 積算価格(原価法)
- 接道義務(建築基準法第43条)
- セール・アンド・リースバック
た行
は行
根拠・一次出典の一覧
- 国土交通省|不動産鑑定評価基準(平成26年5月1日一部改正の公表)
- e-Gov法令検索|法人税法
- e-Gov法令検索|会社法
- e-Gov法令検索|旅館業法
- 厚生労働省|旅館業の営業者の皆さまへ(事業譲渡に関する手続の整備)
- e-Gov法令検索|会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律
- e-Gov法令検索|不動産登記法
- e-Gov法令検索|民法
- 厚生労働省|旅館業法
- e-Gov法令検索|住宅宿泊事業法
- e-Gov法令検索|公衆浴場法
- e-Gov法令検索|食品衛生法
- e-Gov法令検索|消防法
- e-Gov法令検索|消防法施行令
- e-Gov法令検索|風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
- e-Gov法令検索|浄化槽法
- e-Gov法令検索|水質汚濁防止法
- 厚生労働省|レジオネラ対策のページ
- e-Gov法令検索|温泉法
- 環境省|温泉法の概要
- e-Gov法令検索|建築基準法
- 国土交通省|建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し(2025年4月施行)
- e-Gov法令検索|建築物の耐震改修の促進に関する法律
- e-Gov法令検索|都市計画法
- e-Gov法令検索|自然公園法
- 環境省|国立公園における届出・申請
- e-Gov法令検索|森林法
- e-Gov法令検索|河川法
- e-Gov法令検索|景観法
- e-Gov法令検索|屋外広告物法
- e-Gov法令検索|文化財保護法
- 文化庁|文化財
- 国税庁タックスアンサー No.5404 中古資産の耐用年数
- e-Gov法令検索|大気汚染防止法
- 環境省|石綿事前調査結果の報告について
- 環境省|ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物処理
- e-Gov法令検索|ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法
- e-Gov法令検索|借地借家法
- 日本政策金融公庫|一般貸付(生活衛生貸付)
- 日本政策金融公庫|振興事業貸付
- e-Gov法令検索|消費税法
- e-Gov法令検索|地価公示法
- 国税庁|財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)
- 国税庁|財産評価基本通達
- 総務省|固定資産税の概要
- e-Gov法令検索|地方税法
- e-Gov法令検索|土壌汚染対策法
- 法務省|不動産登記のABC
- e-Gov法令検索|国土調査法
- e-Gov法令検索|国有財産法
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確認日:2026-10-29。法令は e-Gov法令検索の現行の版を指しています。改正や通達の変更があるため、手続の前に最新の公式情報を確認してください。
監修:堤 誠之(ジャパンリアルター株式会社 代表取締役)/ 運営:ジャパンリアルター株式会社/ 確認日:2026-10-29